村上式から導かれる「時間を細分化する」という解決策
こうした問題に対処するためには心理的なハードルを下げる工夫が必要だ。そのために最も有効なのが仕事をまとめてやらずに、仕事を細分化して毎日少しずつ取り組んでいく村上式の考え方を取り入れることだ。
村上春樹氏は仕事を作業単位(原稿用紙十枚)に細分化して毎日少しずつ取り組む方法を教えてくれた。この手法は効果的だが、作業単位をどれくらいの単位にしたらいいのか迷う人もでてくる。
そこでよりシンプルに実践できる方法として筆者が提案したいのは仕事を時間単位で細分化して毎日少しずつ取り組むやり方だ。
どんな仕事でも「5分だけ取り組めばいい」と思えば大抵の場合は取り組める。どんなに大変そうな仕事でも取り組めるサイズまで時間を細分化すれば心理的なハードルも下がって毎日取り組めるようになる。
一方で現実的には毎日5分ずつ取り組んでも目に見えた成果は生まれない。会社員が月に20日、毎日5分取り組んでも100分にしかならない。これでは仕事が締め切りまでに終わらないケースもでてくる。
では毎日何分取り組めば先送りせずに目に見える成果も生まれるのか。最適なのは30分というのが筆者の考えだ。
「 1つの仕事に1日30分以上かけない」仕事術心理学分野のクロックテストという実験によれば、人間は同じ作業を続けているとだんだん飽きてくる「心理的飽和状態」に陥り、30分を経過すると集中力が低下しはじめるという。
起業家フランチェスコ・シリロ氏によって提唱され、国連、ノキア、ソニー・モバイル、トヨタ、レゴ、イタリア中央銀行などの組織から評価されているポモドーロ・テクニックという時間管理テクニックは25分間の作業=ポモドーロと5分間の休憩を1セットとして繰り返していく手法だ。
フランチェスコは著書『どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る ポモドーロ・テクニック入門(CCCメディアハウス 2019)』で『ポモドーロは意識と集中力、明晰な思考を促すものでなければならない』としたうえで 1ポモドーロの長さを20分〜35分、最大でも40分が最適と結論づけて最終的に30分を1セットとして設定した。
個人差はあるものの、人がダレ・飽きを起こさず集中力を維持できるのは一般的に30分が限界なのだ。
2007年に古市幸雄氏が書いた本『「1日30分」を続けなさい!人生勝利の勉強法55(マガジンハウス著)』は同年ベストセラー・ビジネス書第1位に選ばれ、 56万部以上売れている。この記事の執筆時点でもAmazon 売れ筋ランキングのタイムマネジメント部門で1位を獲得しており950個のレビューがついているにもかかわらず、星4つの高評価を維持している。
筆者も本書をきっかけに勉強する習慣を築くことができた一人だが、これだけこの本に反響があるのも多くの人が毎日30分勉強に取り組む効果を実感してるからではないだろうか。
こうした理由もあり筆者は毎日30分ずつ仕事に取り組むやり方を提案する。たとえば3時間かかりそうなプロジェクトも1日で仕上げず毎日30分ずつ取り組み6日かけて分割して仕上げる。
村上春樹氏がもっと書きたくなっても原稿用紙十枚で書くのをやめるように。30分以上取り組みたくなっても、30分で取り組むのをやめる。1つの仕事に1日30分以上かけないことがこの手法のポイントだ。
複数の仕事を同時並行で進めることでリスクを分散する1つの仕事に1日30分以上かけないことを意識すると1日の仕事の単位が原則30分となる。そうすると毎日複数の仕事を同時並行で少しずつ進めていく働き方に自ずと変わる。
元マイクロソフト(株)社長の成毛 眞氏は著書『本は10冊同時に読め!本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術 (三笠書房 2008)』で1冊ずつ本を読み通さず、まったくジャンルの異なる本を同時並行で読む読書法を提唱した。成毛氏は『複数の本を並行して読むことによって、つねにモチベーションや集中力を維持したまま読書ができるのだ』と語った。
成毛氏は本を10冊同時に読むことを提唱したが、筆者が提唱するのは10個あるいはそれ以上の仕事を同時並行で進めるやり方だ。そうすると効率的に仕事を進められ、突発的な事象が発生しても仕事をうまくマネジメントできるようになる。
たとえば今日の午後、仕事Aに3時間取り組むことを予定していたとする。そんな中午後に顧客からクレームが入り、午後いっぱい対応に追われることになった。この場合、午後に取り組む予定だった仕事Aは翌日以降に先送りせざるを得なくなり進行に大きな支障が生じる。もし締め切りが明日の場合、今日3時間余計に残業をしなければならない。