回遊式の庭園
庭園は回遊式で、「飛び石づたいに園を巡れば、春は梅、桜、躑躅、さつき、夏は花菖蒲と濠の蓮花、秋は紅葉が眼を楽しませてくれます」。(遠山記念館公式サイトより引用)庭をめぐる水は、組井筒から流れ出た井戸水で、最後は屋敷の外の濠へと流れ入るようにできています。

面白いのは、中棟の大広間から広々と望んだ庭も別な部屋からだと丸っきり違う表情に見えること。各所に置かれた石灯籠や手水鉢がアクセントとなり、言うなれば、部屋ごとに異なる一幅の絵を見るような印象なのです。

この素晴らしい庭の作者は長らく不明でしたが、つい先ごろ2020年秋、新たに見つかった庭園設計図から、龍居松之助によるものだということが判明しました。龍居松之助は、「日本造園史の研究と教育における草分けとして活躍し、戦後も日本庭園の保存公開 に尽力した」(『遠山記念館だより』第60号)ことで知られる人物です。
必ず寄りたい美術館
鉄筋コンクリートの美術館の竣工に合わせ、遠山記念館が開館したのは、1970年(昭和45年)、遠山元一が81歳の時でした。美術 工芸品・建築物を「徒らに私有私蔵すべきではない」という強い意志を示しての設立でした。(『遠山記念館だより』第58号)

現在同館は、世界の美術工芸品約1万1,000点を所有し、その中には、国の重要文化財6件、重要美術品9件も含まれます。コレクションの特徴に触れる紙面の余裕はありませんが、日本と中国の書画や陶磁器、漆工に加え、初代館長新規矩男がオリエント美術研究者であったり、二代目館長山邊知行が染色研究家であった縁からか、それらの方面の資料も豊富です。
この美術館の設計は、今井兼次。日本に最初にアントニオ・ガウディを紹介した人です。カトリック信者でもあり、キリスト教関係の建築もいくつか手掛けています。一見シンプルに見えるこの美術館にも、キリスト教徒だった遠山家のために、さまざまなシンボルが散りばめられています。

<天井のフレスコ画一部と萩原守衛の『女』©Kanmuri Yuki
例えば、入り口扉の上には、笹村草家人によるブロンズ製の天使像がかかり、ブロンズ扉面には、家紋と十字と太陽を組み合わせたシンボルマーク。ガラス扉にも朝日や月星を使ったデザイン、階段の手すりには不死鳥の浮彫などが見られます。またロビーの天井には、柔らかな色のフレスコ画がたゆたうように浮かびます。(『遠山記念館だより』第54号)

この美術館では、年間数回の特別展が開かれています。詳しいスケジュールはどうぞ公式サイトをご覧ください。また新型コロナウイルス以前は、お茶会やお香会、手回し蓄音機でのレコード鑑賞会などが旧遠山邸で開かれ、春秋の週末には、普段見学できない中棟2階の特別公開も行っていました。近いうちの再開を楽しみにしたいものです。
遠山記念館
- 場所:埼玉県比企郡川島町白井沼675
- 開館時間:10時~16時半(入館は16時まで)
- 休館日:月曜日(祝祭日の場合は開館、翌日休館)、年末年始(12月21日~1月5日)そのほかの臨時休館日は公式サイト参照のこと
- 入場料:通常大人800円、高校・大学生600円、特別展のある時は大人1,000円、高校・大学生800円、展示替え期間(邸宅・庭園のみの公開)は大人600円、高校・大学生400円
なお、公式サイトからは「遠山邸のバーチャルツアー」も楽しむことができます。もちろん、実際の訪問には及びませんが、通常非公開である離れ茶室や中棟の2階を覗けるのは大きな魅力です。
興味を持たれた方、まずはバーチャルツアーからいかがですか?
参考文献
- 遠山元一「私の履歴書」(昭和31年6月)『私の履歴書 経済人1』発行1980年、日本経済新聞社
- 『遠山記念館だより』各号
文・写真・冠ゆき/提供元・たびこふれ
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