日本の労働環境の課題

SDGs17の目標のうち「8.労働」では、誰もが人間らしく生産的な仕事ができる社会の実現を目指しています。それには労働に関するさまざまな課題を解決する必要がありますが、日本の労働環境は複数の課題を抱えたままの状況です。

例えば、日本人の総労働時間は令和元年で1669時間。平成24年から緩やかに減少してはいるものの、このデータにはパートタイム労働者も含まれています。一般労働者の総労働時間は2000時間前後と高止まりしており、平成初期の頃から大きな改善は見られません。

このデータを受け厚生労働省は「働き方改革関連法」を施行しています。労働時間法制を見直したり、雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保するために規定の整備を行ったりしています。

2019年4月1日に実施されたばかりなのでまだ大きな変化は訪れていませんが、今後ディーセントワークの実現やSDGsの目標達成には、こうした各国での労働環境の課題を解決するための施策が重要となってきます。

参考:厚生労働省「労働時間の状況」

参考:厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」

ディーセントワークを実現させるためのILOの4つの戦略

ILOはディーセントワークを実現させるために、4つの戦略を公開しています。この4つの戦略に沿って、技術協力や調査研究を行っています。

ディーセントワークを実現させるためのILOの4つの戦略


  • 雇用の促進

  • 社会的保護の方策の展開および強化

  • 社会対話の促進

  • 労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現

各戦略がどのような目的と内容で実施されているのかを解説します。

雇用の促進

ディーセントワークを実現させるための1つ目の戦略は「雇用の促進」です。

世界の完全失業率は増加傾向にあります。特に若年層の失業率は高く、成人に比べて約2〜3倍ほどの失業者が存在します。

また、高齢者や障害者の雇用対策を強化することも、ディーセントワークを実現するための大きな課題です。例えば、現時点では「障害者雇用促進法」により、企業は雇用する労働者の2.3%に相当する障害者を雇用することが義務付けられています。

障害や学歴の有無に加え、年齢に関係なく、誰もが地域で自立した生活を送れるようになるためには、こうした若年層・高齢者・障害者の雇用促進および、雇用の質を追求することが必要です。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」

参考:厚生労働省「障害者雇用対策」

社会的保護の方策の展開および強化

ディーセントワークを実現させるための2つ目の戦略は「社会的保護の方策の展開および強化」です。

労働者が安全かつ安心に働くためには、全世代を支援する社会保障制度や社会保障改革の推進が必要です。

「全世代型社会保障改革」とは、人生100年時代の到来を見据えてお年寄り・子供・子育て世代・現役世代と全世代を広く支えるための社会保障制度の構築のこと。政府は令和元年に「全世代型社会保障検討会議」を設置し、持続可能な改革について検討してきました。方針は決まっているものの、いまだ「全世代型社会保障」は構築されていません。

ILOはディーセントワーク実現のため、こうした社会保護の方策の推進や強化を進めるべく取り組みを行っています。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」

参考:厚生労働省「全世代型社会保障改革」




社会対話の促進

ディーセントワークを実現させるための3つ目の戦略は「社会対話の促進」です。

社会対話とは「政府・使用者・労働者の代表が、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して行うあらゆる種類の交渉・協議・あるいは単なる情報交換」を指す概念のこと。わかりやすくいえば、企業と労働者が対等な関係を築き、意見を交わしたり情報を交換しあったりできるような状態のことを指します。

ILOは社会対話が促進されれば、経済や社会面などの重要な問題を解決できたり、社会や産業の平和と安定を増進したり、経済発展を推進したりなどが期待できるとしています。

社会対話は、ディーセントワーク実現とILOの目標達成における重要なポイント。そのためILOは、社会対話に関する国際労働基準の推進や全体的なディーセント・ワーク指標の一部としての社会対話指標の開発などを行っています。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」P5

参考:ILO「社会対話に関する新たなツールを発表」

労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現

ディーセントワークを実現させるための4つ目の戦略は、「労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現」です。

ILOが掲げる労働における基本的原則および権利とは、結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認や強制労働の廃止、児童労働の撤廃、雇用および職業における差別の排除などのことです。ILO加盟国は、こうした基本的原則や権利の尊重・推進・実現に向けた義務を負っています。

具体的な取り組みとしては、労働者を保護するためのルールの堅持や強化、労働者の健康を確保するための労働時間の見直し、男女平等と女性活躍の推進などがあげられます。また、ライフ・ワーク・バランス社会の実現もILOが目指すべき目標のひとつです。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」P5

参考:国際労働機関「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」