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インボイス制度の撤回は厳しい?
インボイス制度対策のカギは「クラウド会計ソフト」

インボイス制度の撤回は厳しい?

齊藤:
インボイス制度が話題になるにつれて、「インボイス制度反対」を掲げる業界団体や署名運動が増えてきました。これからインボイス制度が撤回になる可能性はあるのでしょうか。

山内:
う〜ん、制度そのものをストップすることはちょっと厳しいんじゃないでしょうか。

先ほどもお話したように、インボイス制度は国の悲願として、かなり前から時間をかけて準備されてきたものです。制度の決定直後ならまだしも、導入までもう1年ちょっとしかありませんし……。

それでも、先の参院選の結果次第では状況が変わるケースもあったと思います。選挙の争点になっていたので私も結果に注目していましたが、結果は与党の大勝だったので。

齊藤:
「あなたの一票で政治が変わる」とはよく言いますが、今回は反対派の声を票という形で届けきれなかったわけですね。

山内:
結果だけを見れば、そう言えてしまうかもしれません。こうした背景があるので、業界団体の反対意見もなかなか通りにくいだろうと思うわけです。

ただ、すでにインボイス制度の導入を極めて現実的なものとして捉えている日本税理士会連合会は、ほかの業界団体と違うアプローチをしています。提言のなかで、「インボイス制度の撤回」ではなく「免税事業者へ支払った消費税の仕入税額控除8割の当面維持」を提案。景気や当事者への影響を、最小限に食い止めようという方向性ですね。また、少額取引における保存書類要件についても、簡便的な取扱いの継続を求めています。

齊藤:
そちらのほうがいくらか現実的な感じもしますね。

伊沢:
インボイス制度に関しては反対派、賛成派で非難の応酬が繰り広げられていますが、そもそも制度の理解が根本から間違っている場合も多いんですよ。

インボイス制度は、「消費税の制度の仕組み」「インボイス制度の歴史的背景」「諸外国の動向」などを把握していないと、正確に理解できるものではないからです。

インボイス制度はなぜ必要? 専門家に“中立的な視点”から教えてもらった
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

伊沢:
そもそも世間的にはまだ「インボイス制度の是非」を議論できるだけの土台となる知識が足りていない。もちろん、これはみなさんを責めたいわけではなく、国側の丁寧な説明や教育が足りなかった結果ともいえます。

齊藤:
「制度理解」という点で言うと、一時期SNSを騒がせた「登録事業者になると本名や住所が全世界に公開される」という情報は本当なのでしょうか?

山内:
一部は本当ですが、誤解もあります。

まず、消費税法上の決まりで、申請者の本名は確実に公開されます。ただ、屋号(ペンネーム)や住所の公開は「希望する場合」のみなので、申請者の本名とペンネームが紐づけられて公開されるわけではないんです。

それでも、本名が公開されることを嫌がる気持ちは分かります。ただ、一方で発注元が「この人は本当に登録事業者なのか」を確認し、登録番号の照合を行うために本名の公開が必要なのもたしかで、やむを得ない側面もありますね。

インボイス制度対策のカギは「クラウド会計ソフト」

齊藤:
インボイス制度についてくわしく見ていくと、「制度に対応できる体力のない小規模事業者は苦しくなる」ともいえそうですが、小規模事業者の打開策などはあるのでしょうか?

山内:
カギになるのは、フリーランスでも使えるようになっている各種「クラウドツール」の進化具合に尽きると思います。どこまで使いやすく、安価な形で普及するかですね。手作業での照合や管理などに頼らなければいけない構造になれば、事務コストがかかりすぎますし、業務を圧迫し、副業推進の流れにも逆行します。

また、クリエイターにも高い事務能力が問われ始めている流れはすこし気がかりな点です。「事務が苦手だからこそフリーランスなのに……」という声も聞かれ、クリエイターに負担が発生することによる文化的な影響も心配されます。

インボイス制度はなぜ必要? 専門家に“中立的な視点”から教えてもらった
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

伊沢:
やっぱり、消費税まわりの制度は複雑で、難しいです。国税庁からは解説冊子なども出ていますが、所得税の確定申告だけでも大変なのに、消費税までは……という気持ちもよく分かります。

ただ、逆にこの状況はクラウド会計ソフト大手にとって「ビジネスチャンス」でもあるため、消費税計算・申告機能の開発に注力しています。ソフトの力でカバーできる部分も大きくなってはいますね。

齊藤:
クラウド会計ソフトの導入などにあたり、国や自治体による補助などは期待できるのでしょうか……?

山内:
「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は、インボイス制度の対応費用も対象になる可能性があります。ただ、そもそも補助金の存在はフリーランスに十分認知されていませんし、状況によっては申請のハードルも高いというのが現状です。

齊藤:
Workship MAGAZINEでも補助金関係の情報は多く発信していますが、もっと力を入れていかないとですね。