目次
相続税額の計算方法
・課税される遺産の総額を算出
・法定相続分に基づき相続税の総額を算出
・実際の取得割合に応じて相続税額を算出
相続税の控除制度と特例
・小規模宅地等の特例
・未成年者控除・障害者控除
・生命保険の非課税枠
・退職手当金等の非課税枠
相続税額の計算方法
相続税の計算は複雑です。遺産額に税率を掛けるだけの単純な計算ではないため、計算ミスも発生しやすいでしょう。どのような手順で相続税額を算出するのか解説します。
課税される遺産の総額を算出
まずは、相続財産をすべて洗い出したうえで、課税される遺産の総額(課税遺産総額)を算出します。
- 課税遺産総額=正味の遺産額-基礎控除額
すべての遺産から、葬式費用や債務、非課税遺産などを差し引いて「正味の遺産(相続税の対象となる財産の総額)」を算出したあと、「相続税の基礎控除額」を控除したものが、課税遺産総額です。
なお、相続開始前3年以内に暦年課税による贈与で取得した財産がある場合は、相続税の課税価格に贈与財産の価額を加算しなければなりません。相続税の計算上、贈与税額は控除されます。
法定相続分に基づき相続税の総額を算出
相続税では、「法定相続分で課税遺産総額を分配した」と想定して「相続税の総額」を計算し、その後に実際の取得割合に応じて各相続人の納付額を算出します。
相続税の総額を計算するにあたり、「法定相続人の範囲」を明らかにしておきましょう。各法定相続人の取得金額を算出したあと、以下の計算式で各法定相続人の相続税を算出します。各法定相続人の算出税額の合計が「相続税の総額」です。
- 各法定相続人別の相続税=法定相続分に応ずる取得金額×相続税率-控除額
相続税率と控除額は、国税庁のウェブサイトにある「相続税の速算表」を参考にしましょう。なお速算表の控除額は、配偶者の税額軽減や未成年者控除といった「税額控除」とは別です。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照:財産を相続したとき|国税庁
実際の取得割合に応じて相続税額を算出
続いて、相続税の総額を「実際の取得割合」に応じて按分し、財産を取得した人ごとの税額を算出します。実際に財産を取得しない法定相続人がいれば、その人の相続税額は無税です。
この際、各相続人の事情に基づいた「税額控除」を反映させます。以下は控除の一例です。
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 暦年課税に係る贈与税額控除
- 相続時精算課税に係る贈与税額控除
各相続人の税額から控除額を差し引いた額が、それぞれの納付額です。
相続税の控除制度と特例
相続税には、基礎控除とは別にさまざまな控除や特例が設けられています。正味の遺産が基礎控除を超える場合でも、要件を満たした場合は相続税が無税になる可能性があるでしょう。代表的な控除・特例を紹介します。
小規模宅地等の特例
「小規模宅地等の特例」とは、不動産を相続した際に適用となる代表的な特例です。被相続人、または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の宅地を相続した場合、特例の適用要件を満たすと土地の評価額から50%または80%が減額されます。
特例の対象となる宅地は「居住の用に供されていた宅地」「事業の用に供されていた宅地」「貸付事業の用に供されていた宅地」です。居住用と事業用は80%、事業用は50%が減額できます。
例えば、被相続人の居住の用に供されていた宅地を、被相続人の配偶者が相続したと仮定しましょう。課税価格に算入すべき価額の計算上、330㎡を限度面積として土地の評価額を80%減額できます。
参照:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
未成年者控除・障害者控除
相続財産を取得したときの年齢が18歳未満の場合、一定の要件を満たすと「未成年者控除」が受けられます。控除額は満18歳になるまでの年数に10万円を乗じた金額です(1年未満の期間は切り上げ)。
例えば、年齢が15歳8カ月の場合、30万円(10万円×3年)が控除額です。未成年者控除額が、本人の相続税額を上回る場合は、上回った部分を未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。
また、相続人が85歳未満の障害者の場合、一定の要件を満たすと「障害者の税額控除」が適用となります。控除額はその障害者が満85歳になるまでの年数に10万円を乗じた金額です(特別障害者は20万円)。
未成年者控除同様、障害者控除額が本人の相続税額を上回る場合は、上回った部分をその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。
なお、いずれの控除も本人が「法定相続人」である場合に適用されます。遺言書で相続人になっていても、法定相続人でない場合には控除が受けられません。
参照:No.4164 未成年者の税額控除|国税庁
参照:No.4167 障害者の税額控除|国税庁
生命保険の非課税枠
被相続人が生命保険の被保険者で、保険料の一部または全部を自分で負担していた場合、死亡保険金は相続税の課税対象です。
ただし、死亡保険金の受取人が相続人である場合、以下の非課税限度額を超えた部分のみが課税価格となります。
- 非課税限度額=500万円×法定相続人の数
「法定相続人の数」には、相続放棄をした法定相続人も含まれます。
相続人が受け取る死亡保険金は受取人の「固有財産」とみなされるため、基本的には遺産分割の対象にはなりません。受取人が相続放棄をして相続人でなくなったとしても、死亡保険金を受け取れます。
参照:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
退職手当金等の非課税枠
被相続人に支給されるはずであった退職手当金等のうち、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続税の課税対象です。相続人が退職手当金等の受取人になった場合は、一定の非課税限度額が設けられています。
- 非課税限度額=500万円×法定相続人の数
法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数となります。法定相続人(相続放棄した人を含む)が3人の場合、非課税限度額は1,500万円(500万円×3人)です。
参照:No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁