岸田文雄首相が長男・翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に抜てきした人事に関し、批判が高まっている。政権の支持率が下がる中で子息を重用したことが非難されるとともに、政策に精通しているわけではないと見られる30代の息子が、首相秘書官として1,000万円超の高給を受け取るとの報道も出たからだ。

発表直後から批判多く

岸田首相が長男の翔太郎氏(31歳)を首相秘書官に充てると発表したのは2022年10月4日。ちょうど、安倍晋三元首相の国葬対応や円安、物価高などで政権に対するネガティブな国民感情が高まっていた時期だ。

それだけに、発表直後からSNS上では批判の声が挙がった。政府は「適材適所で選んだ」と説明したが、もともと商社出身ということで政務に詳しいとも思えない。

政務秘書官は、複数いる首相秘書官の中でも筆頭格に当たる。本来なら長年にわたり、政治家の秘書を務めた人物や政策への理解が深い官僚出身者らが占めることが多いポジション。それだけに、野党からは「公私混同だ」との批判が出た。

そうした経歴面での疑問と合わせ、待遇に関する批判も高まった。コロナ禍で業界によっては賞与カットや希望退職者の募集が余儀なくされる中、経験の浅い若者が一足飛びで高給取りの首相秘書官になることへの疑問があったからだ。

政務秘書官の年収は1,000万円超??

それでは、首相秘書官の給与がどうやって決まるのかを見てみる。内閣総理大臣の秘書官は、国家公務員の特別職に当たる。公務員の給与は法律によって、公務員のランクごとに金額が規定されている。

内閣総理大臣の秘書官は、12ランクに分かれている。基本的な棒給月額は最も低い「1号棒」だと26万4,700円、最も高い「12号棒」だと58万6,200円。これに地域の物価に応じた「地域手当」や、一般のボーナスに当たる「期末手当」が追加で支給される。

翔太郎氏がどれだけの報酬を受け取るかは、まだ決まっていないらしい。30代前半の年齢から考えれば、それほど上位のランクとも思えない。しかし、一方で政務秘書官が首相秘書官の筆頭格という立場、政権にとって逆風の中であえて身内を登用した経緯から想像すると、それほど下位のランクにするとも考えにくい。

仮に最上位の12号棒が適用された場合、棒給月額は前述の通りに58万6,200円で、東京に住んだ際の地域手当は棒給月額の2割に当たる11万7,240円となる。これらの12ヵ月分に俸給月額の4.3ヵ月分が支給される期末手当が年に2回出たとすると、年間の収入は1,348万2,600円と計算できる。

日本の平均年収の3~4倍に?

翔太郎氏が実際に年収1,348万円をもらうかどうかは分からないが、想定される待遇が一般社会から見てどのような水準にあるのか確認してみる。

転職情報サイト「doda(デューダ)」によると、2021年の日本国内の平均年収は403万円だった。「平均」というのは、年収がケタ違いに高い一部の層が値を引っ張り上げる性格があるため、日本人の多数派は年収が400万円以下であると見られる。

これらを考え合わせると、翔太郎氏の年収は日本全国の平均年収の3~4倍ほどになる可能性がある。首相の政務秘書官という重責から考えると、一般的な平均値より高いのは当然といえそうだが、秘書官の給料の原資は税金である。賛否両方に意見が分かれるかもしれない。

三井物産の平均年収は1,482万円

さて、ここで翔太郎氏の経歴をあらためて振り返る。翔太郎氏は慶應義塾大学を卒業後、大手商社の一角である三井物産を経て、2020年3月から岸田文雄事務所で秘書を務めた。つまり、秘書歴の意味では2年半ほどの人物で、むしろ三井物産で勤めていた時期のほうが長い。

それでは、前述の秘書官としての年収が、三井物産時代と比べて多いのだろうか、少ないのだろうか。

三井物産や三菱商事といった大手総合商社は海外駐在者も多く、給与水準が日本有数の高さにあることで有名だ。経済誌の「東洋経済」が2022年2月に発表した、平均年収の高い全国500社のランキングによると、三井物産は1,482万円で7位に入っている。

ちなみに、三井物産と同じく「五大商社」といわれることの多い三菱商事は4位、伊藤忠商事は5位、住友商事は10位、丸紅は19位で、軒並み上位に位置している。

批判の払拭には活躍するのみ

本人や政府は「適材適所」というが、翔太郎氏が岸田首相の長男ではなく、ただの31歳の商社マンだったとしたら、いきなり首相の政務秘書官に抜てきされるとは考えにくい。世間が「親の七光り」「身内びいき」と批判的な目で見るのも当然で、ましてそれが年収アップにつながったとあれば、反感を買うのは分かりきったことだ。

秘書は、活躍の度合いが外からは見えにくい。それでも、この非難の嵐をくぐり抜けるには、これからの自身の仕事ぶりをもって高給を取るに見合った人物であることを、証明する必要性があるだろう。

文・MONEY TIMES編集部

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