2022年は、すしチェーンで不祥事が相次いで発覚した。今回は、すしチェーンの不祥事を取り上げ、その背景にある業界の熾烈な競争と業界の今後について考えてみたい。

かっぱ寿司社長逮捕! 前の職場から営業情報を持ち出し

2022年9月30日、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長(のちに辞任)と同社の幹部が、前勤務先である「はま寿司」のデータを不正に持ち出した疑いで逮捕された。

田辺容疑者は、はま寿司を経営するゼンショーHDの取締役を務めていたが、カッパ・クリエイトへの転職が決まり、2020年9月中旬に退職。同月末に元部下を使い、はま寿司の仕入れデータなどの営業情報を外部サーバーにアップロードさせた。退職前には秘密保持誓約書に署名しており、同容疑者は違法性を認識していたとみられる。

同年11月、カッパ・クリエイトに入社した同容疑者はデータをUSBメモリに移し、社内で共有していた。

回転ずしチェーンで相次ぐ不祥

2022年はかっぱ寿司だけでなく、回転ずしチェーンで不祥事が相次いだ。おもなものだけでも、次のような事件がある。

4月 くら寿司店長自殺 上司のパワハラ疑惑

店長が店舗の駐車場に停めた自身の車の中で自殺。複数の従業員が「店長が上司から日常的にパワハラを受けていた」と証言している。しかし、会社側はパワハラの事実は確認していないとしている。

6月 スシロー「おとり広告」で消費者庁から措置命令

2021年9月~11月、スシローがテレビCMでキャンペーンを行ったウニやカニについて、終日提供できない日があった。店舗は9割近く、キャンペーン期間の半分以上の日数提供できなかった店舗は7割強にのぼった。会社側は商品の在庫がなくなるのを恐れ、商品の販売を中止したが、テレビCMはそのまま続けていたという。

消費者庁はこうした行為を「おとり広告」とみなし、再発防止とその対策を求める措置命令を出した。

8月 元気寿司 新店舗工事関連で架空支出

元気寿司では、新規出店を担当する店舗開発部長が過去約1年半にわたって出店した5店舗について、架空の工事費用支払いや仲介手数料などの名目で業者に数百万円を支払っていることが明らかになった。開発部長は部下に指示を出して架空の支払いをさせ、業者はバックリベートを部長に払っていたという。

不祥事の陰に熾烈な競争が

現在、回転すしチェーンを取り巻く環境は厳しい。コロナ禍もテイクアウトなどで乗り越え、市場規模は近年拡大しているが、不安定な世界情勢の影響を受けて原材料・輸送費などのコストが上昇し、税込み110円価格の寿司を廃止するチェーン店が増えている。

回転すしチェーンの4大チェーンはスシローを筆頭に、はま寿司、くら寿司、かっぱ寿司と続く。かっぱ寿司はかつて業界1位だったが、2010年にスシローにその座を奪われ、最近10年は経営不振にあえぎ、2014年にコロワイド傘下になっている。業界の市場は拡大しているが、成長しているのは上位3チェーンだけであり、かっぱ寿司は低迷している。

かっぱ寿司の元社長が行ったはま寿司の営業情報持ち出しについて。カッパ・クリエイトという法人そのものの責任が問われるかどうかは今後の調査が待たれるが、業界内の熾烈な競争の様子がうかがえる。

また、くら寿司や元気寿司の不祥事からは、人手不足に悩む飲食業界のハードな労働環境の歪みが表れているといえるのではないか。

回転ずしの価値は“お得感”から“体験”へ?

「110円寿司を廃止するチェーン店が増えている」と述べたが、実はかっぱ寿司だけは110円の寿司メニューを増やしている。おとり広告で問題になったスシローが、ウニ・カニといった高級路線を打ち出そうとして商品の確保に苦労していることと対照的だ。

回転すしチェーンは4大チェーンを中心に競争が激化しているが、価格の安さ以外の部分に価値を見出そうとしている。スイーツや麺類など、寿司以外のメニューを充実させたり、アニメとのコラボキャンペーンを行ったりするなど、単に「寿司がお得に食べられる場所」から「体験」の提供へと軸足を移しつつある。

今回の度重なる不祥事は、事件を起こしたチェーンだけの問題ではなく、業界全体が置かれている状況の一端を表している。「不祥事を起こした企業が悪い」で終わらせず、業界そのものの信頼を揺るがせかねない事態なのだ。

文・はせがわあきこ

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