「子育て」ならぬ「孫育て」がシニア世代を悩ませている。かわいい孫とはいえ、「人生100年時代」で仕事や介護に追われ、孫育てを負担に感じるシニア世代は少なくない。シニア世代が抱える孫育てをめぐる複雑な思いとは?

「孫育て」をめぐる複雑な思い

第一生命経済研究所が実施した「祖父母による孫育て支援の実態と意識」調査から、孫育てに関するシニア世代の複雑な思いが読み取れる。同調査は、孫をもつ全国の55~74歳の男女1,000人を対象に実施し、孫育ての実態や孫育てに関する祖父母の意識を探った。

「孫の母親に頼まれて孫の面倒をみた経験がある」と回答したのは、祖父で59.8%、祖母で73.0%だった。孫と同居する場合や30分未満の範囲に孫が住んでいるケースでは、孫の面倒をみた経験がある祖父母の割合は8割を超えた。

さらに、「子育ては祖父母に頼らず親自身で行うべきか」を尋ねたところ、そう思うと回答した祖父母は約8割に達した。その一方で、「孫の世話は大変だが、娘や息子のためには引き受けるべき」と答えた割合も約7割を占めた。

同調査はこのような結果から、本来なら子育ては親自身で行うべきだと祖父母は考えながらも、一方では孫育てを引き受けるべきだとするある種の複雑な意識を抱いている、という趣旨の指摘をしている。

孫との過ごし方は「密着型」から「交流型」へ

シニア世代の子や孫との過ごし方に関する考え方は、ここ20~30年で変化している。

内閣府は、「高齢者の生活や意識に係る現状を把握すること」を目的に、5年ごとに「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を実施している。

1995年度の同調査では、子どもや孫との付き合い方について、「いつも一緒に生活できるのがよい」と回答した割合は54.2%、「ときどき会って、食事や会話をするのがよい」が38.0%、「たまに会話する程度でよい」が5.6%だった。

ところが、2020度の同調査では、「いつも一緒に生活できるのがよい」が18.8%と大きく減少した一方、「ときどき会って、食事や会話をするのがよい」が56.8%と増加し、「たまに会話する程度でよい」も10.4%と微増した。

こうしたシニア世代の考え方の変化について、第一生命経済研究所の北村安樹子主任研究員は「高齢者が理想とする老後生活は、子どもや孫といつも一緒に生活する『密着型』から、プライベートな時間・空間を確保し、ときどき会ってともに過ごす時間を楽しむ『交流型』に転換した」と分析している。

定年延長でライフスタイル変化

シニア世代の考え方が変わった背景にあるものは何か。

1つは健康寿命の延伸に伴うライフスタイルの変化だ。かつては、定年退職の平均年齢が55歳の時代もあった。1994年に60歳未満の定年制を禁止する規定が設けられ、1998年に施行された。

60歳で定年退職する慣行が定着したのは1998年以降で、今や70歳まで就業機会を確保することが企業の努力義務となっている。定年延長や定年制を廃止する企業も増えつつある。

このように「現役」として働く期間が長くなるにつれて、子や孫との付き合い方・過ごし方に関する考えも変わっていったと見られる。

孫育てと介護のダブルケアも

シニア世代を取り巻く環境の変化は「仕事」だけではない。

公益財団法人「生命保険文化センター」によると、年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合に関して、80~84歳は26.4%、85歳以上は59.8%に上る。

シニア世代は定年延長で働く期間が長期化する一方で、自らの親の介護にも直面している。孫育てと親の介護というダブルケアを余儀なくされれば、悠々自適なセカンドライフを送るわけにもいかなくなる。

夫婦共働き増加で働く女性は不満を抱える

シニア世代の子や孫との付き合い方が「密着型」から「交流型」に変化する一方、現役の子育て世代の「孫育て」ニーズは高まるばかりだ。

2020年版厚生労働白書によると、2019年の共働き世帯の割合は66.2%だった。1989年の42.3%と比べて、20ポイント以上増加している。

内閣府男女共同参画局によると、1998年に「妻がパートで働く共働き世帯」が「妻がフルタイムで働く共働き世帯」を上回り、2019年には1985年時と比べてその数が約3倍になった。この「妻がパートで働く共働き世帯」の増加が、共働き世帯全体の増加につながっているという。

夫婦共働き世帯が増える一方で、働く女性の約4割は家事育児に不満を抱えているという調査結果も出ている。こうした働く女性の不満などが、シニア世代に子育てで支援を求める原因にもなっている。

仕事、介護、孫育て…シニア世代の苦悩

健康寿命が延びているとはいえ、仕事を続けながら親の介護もし、そこに孫育てが加われば疲弊するのも無理はない。子や孫との過ごし方が「密着型」から「交流型」へ変遷し、シニア世代が複雑な思いを抱えているのは無理もないことではないだろうか。

文・MONEY TIMES編集部

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