決定打は富裕層海外移住願望が高まっているとの噂
私にとって決定打となったのは、「自宅での軟禁状態に嫌気がさした上海の富裕層が、真剣に海外の移住先を探している」とのニュース見出しです。
真偽のほどは明らかではありません。おそらくは風聞程度のネタをおもしろおかしく膨らまして書き上げただけでしょう。
ですが、海外に移住してしまう人の多さは、中国政府首脳陣にとって非常に頭の痛い問題です。
次のグラフがその深刻さを示しています。
私も中国共産党の幹部や大手国有企業の経営者の大部分は、少なくともひとり海外に永住権を持った近い親戚がいて、いつでもそこに逃げこめる用意をしているという話は聞いていました。
しかし、たった1年で1050万人もの中国人が、観光客や留学生としてではなく、移民として海外に出て行ってしまうとは驚きです。
約240万人が香港へ、約220万人がアメリカへ、約80万人が韓国へ、そして約77万人が日本へと移住しています。しかも、他の発展途上国からの移民に比べて高学歴・高所得の人が多く、人材流出による被害は人数よりずっと大きなものでしょう。
もっと下世話な話では、習近平の最初の奥さんは中国の駐イギリス大使か、それに近い高位の外交官の令嬢だったそうです。
習近平がまだ中国共産党の若手幹部候補生だった頃、突然「私はイギリスに永住することにしたわ。あなたも一緒に来ない?」と言われて離婚せざるを得ず、その後党内の信頼回復に苦労したといいます。
それにしても、経済が額面どおりの発展をし、人々の暮らし向きも年々良くなっているとすれば、移民収支が年間950万人の赤字ということがあるでしょうか?
海外移住者の多さは、それぐらい中国にとってセンシティブな問題です。こんな問題は、噂話の段階でもなるべく海外報道陣には知られないように手を打つでしょう。
中国政府首脳が敢えてそうした噂を放置しているとすれば、やはり上海財界人の大物や、彼らの後ろ盾になってきたいわゆる上海幇(シャンハイパン)の政治家たちを失脚させようという意図があるのではないでしょうか。
じつは、恒大集団の創業CEOがあれほどいじめられているのも、彼が上海幇系の政治家と親密だからだという話もあります。
そこで気になるのが、中国共産党政治局常務委員会の勢力配置です。
このうち、下の3人は上海幇と見られています。問題は、永世国家主席となりたがっている習近平には忠実な秘書役の栗戦書以外、腹心の部下と呼べる人がいないことです。
李克強は、習政権初期には、党幹部の中でもっとも経済に明るい実務家として習近平を支えてきました。しかし、習が自分自身への個人崇拝をあおり立てる姿勢を露骨に出し始めたことに嫌気がさして、今年いっぱいで国務院総理(首相)の座を降りると宣言しています。
習近平としては、上海幇の3人が李克強を取りこめば常務委員会の中で多数派を形成されてしまうことが怖いでしょう。
そこで、機先を制して上海幇叩きに出たというのが、不可解なところの多い上海ロックダウン騒動の真相ではないでしょうか。
編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。
文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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