タンパク質は様々な食材から摂ることができるが、値段が比較的安く、調理がしやすく、しかも筋発達に効果的なタンパク質食材と言えばやはり卵だ。安価なのに筋発達の効果が期待できる食材はそう多くはない。そういう意味では卵は貴重であり、筋発達を目指すなら卵を利用しない手はないのである。[IRONMAN2022年1月号より修正引用]
卵は完全食材
「卵を食べよう!」先に言ってしまえばこれが結論なのだ。筋発達を目指しているなら、積極的に卵を食べることだ。この結論を理解した上で、どうして卵がいいのかについて今回は解説していきたい。
卵が完全な食材であると言われるのは以下の理由からだ。
●タンパク質を豊富に含んでいる。
●必須脂肪酸を含んでいる。
●コレステロールがある。
●鉄、カルシウム、ビタミンA、D、E、コリン、葉酸、カリウム、ナトリウムを含んでいる。
卵の殻にさえも大量のカルシウムが含まれているので、その気になれば殻を食べることも可能だ。例えば、ミスターオリンピアのタイトルを2度手にしたフランコ・コロンブは卵の殻も食べていたそうだ。もちろん、万人向けの食材とは言えないが、その気になれば卵の殻も食べられるのだ。
卵1個に含まれるタンパク質は約7g。しかも必須アミノ酸9種類が全て含まれた高品質のタンパク質だ。筋肉を作るだけでなく健康を保つためにも、このような完全なタンパク質は不可欠であり、卵はまさに理想的な食材なのである。トレーニングを行う人の中にはビーガンやベジタリアンの人もいるが、残念なのは、植物性タンパク質の食材には、卵のような完全タンパク質の食材がないことだ。
もちろん、植物性タンパク質食をいろいろ組み合わせることで必要なタンパク質を身体に供給することは可能だが、多くの場合はサプリメントを利用することになり、食材だけで必要量をまかなっていくのは困難なのである。ちなみに植物性タンパク質の欠点をもうひとつ挙げるなら、ヒトの体内で適切に消化されにくいことである。じつは、食べたものが適切に消化されるかどうかは、どれだけの量を食べるか以上に重要なことなのだ。消化されなければ吸収されないわけだから当然だ。1000gの食物を食べても、内200gしか吸収されなかったとしたら、残り800gは無駄になってしまう。
食べる量よりも、食べたものが体内でどれだけ利用されるのか、つまり、どれだけ吸収されるかに重点を置いて食事内容を考えるようにしてほしい。そうすれば、余分なカロリーも抑えられ、無駄に体脂肪を増やさずにすむはずだ。
必須アミノ酸とは、体内で他の成分から作り出すことができないアミノ酸だ。そのため、必須アミノ酸は食物から得るしかない。すでに述べたとおり、卵には9種類全ての必須アミノ酸が含まれていて、これは牛乳や肉も同じである。
「卵の食べ過ぎは悪」は過去の話
アメリカの食品医薬品局(FDA)や栄養学会は、長年にわたって卵の食べ過ぎに警鐘を鳴らしてきた。卵を食べることでコレステロール値が上昇したり、心臓発作の原因となる高脂血症などが懸念されていたからだ。そのため、卵を食べるなら量を制限したり、あるいは食べない選択をするのが賢明だと主張されていたのだ。
しかし、その後の研究で、卵に含まれるコレステロールは体内のコレステロール値を上昇させないことが明らかになり、卵を敬遠するという考えが改められるようになってきた。医師や栄養学者でも間違えることはあるということだ。
また、時代の流れとともに「脂肪食」もまた、ヒトの健康や肉体づくりに有用であることを示す研究結果が数多く発表されるようになった。「健康に良い脂質」という言葉も一般的に使われるようになり、脂肪の全てが悪者扱いされた時代は終わったのだ。
ボディビル界においても、脂肪食の扱いは大きく変化した。かつては誰もが脂肪食を避け、代わりにたくさんのタンパク質と炭水化物を食べていた。しかし、多くの研究や実験結果が発表されたことで、必須脂肪酸の存在や、適度な脂肪食は効率の良いエネルギー源になることが知られるようになったのである。1980年代のボディビル界では、高炭水化物食がブームになっていた。しかし、炭水化物は身体にとって必須の栄養素ではない。必須アミノ酸や必須脂肪酸は存在しても、必須炭水化物というものは存在しないのだ。
やがて身体づくりに多くの炭水化物は必要ないことがわかってくると、アスリートの食事は「高タンパク質+脂質」へと変わっていった。ケトダイエットや肉食ダイエットなどが登場し、多くの人が取り入れるようになったのである。ただ、このような食事法は誰にでも実践できるものではない。特に心臓病や高コレステロール症の人は医師の判断を仰ぐ必要がある。その場合、相談する医師は食事やサプリメント、トレーニングに精通した医師であればなおいい。
特別な病歴や体質の持ち主でない限り、卵を過度に警戒する必要はない。少なくともボディビルを中心にしたライフスタイルを送ってきた人たちは、何十年にもわたって日々たくさんの卵を食してきたのだから。ちなみに2018年の「ニュートリエンツ」誌に掲載されていた「食物性コレステロールと循環器系疾病との関連性欠如」という記事に、次のような記載があったので紹介しておきたい。
「これまでに行われてきた広範囲にわたる研究では、心血管疾患(CVD)の発症と食物性コレステロールとの密接な関係を支持する証拠は示されていない。これを受けて、2015~2020年の“アメリカ人のための食事ガイドライン”では、食物性コレステロールの摂取量を1日300mgに制限するという過去の記載事項は削除された」