人口減少で小売業界の先行きが懸念される中、ドラッグストアの市場規模は拡大基調にある。最近では、医薬品の他に日用品や食品の品ぞろえを強化し、その安さを武器に、他の業態から顧客を奪っているからだ。それにしても、なぜドラッグストアは価格が安いのか。今回はその背景を紹介する。

市場規模は8兆円に

小売り・流通業界のニュースを紹介するサイト「ダイヤモンド・チェーンストア」が2022年4月に配信した記事によると、2020年度のドラッグストアの市場規模は、2019年度と比べて4.6%増の8兆363億円となった。

規模の拡大とともに寡占化も進んでおり、シェア上位10社による市場占有率は約75%に上る。2021年10月には、旧マツモトキヨシホールディングスと旧ココカラファインが経営統合してマツキヨココカラ&カンパニーが誕生しており、大手業者間で業界再編の流れも強まっているのが現状だ。

日用品に利益を求めず

ドラッグストアの起源は、1901年にアメリカ・シカゴにオープンした「ウォルグリーン1号店」といわれている。市街地のバス停前に店を構え、幅広い品ぞろえで誰もが気軽に立ち寄れる店としてにぎわった。その後、1950年代には郊外に大型店が次々にでき、日用雑貨の取り扱いも始めたという。

日本では、ビジネス志向の強い薬局経営者がドラッグストア業態に興味を示し、品ぞろえを医薬品から日用品や食品に広げていった。日本国内では、1970年代から店が増え始めたといわれている。

通常、旧来の薬局の主力商品だった医薬品や化粧品は利益率が高い。この分野から派生したドラッグストアの業態では、日用品や食品を利益がほとんどない低価格に設定したとしても、それを「呼び水」として集客。もともと得意だった医薬品や化粧品を一緒に買ってもらえれば、トータルで利益が確保できる。

つまり、食品スーパーが食品で利益を得なければならないのに対し、ドラッグストアは必ずしも食品で利益をあげる必要がない。だからこそ、同じ日用品でもドラッグストアのほうが低価格ということが起こり得るのだ。

チェーン展開で「規模の経済性」

上述の通り、日本国内のドラッグストア業界は上位10社で市場の4分の3を占めている。これは大手業者のチェーン化が進んでいることを意味する。

ドラッグストアに限らず、チェーン化による事業の拡大は「規模の経済性」のような効果を生み出す。これは事業規模を大きくすることで、さまざまなコストが下がることを指す。

例えば、ある地域に複数の店を出せば効率的な物流網を作れるため、1店当たりの物流費用が抑えられる。費用の抑制分を価格の引き下げに当てられるため、規模の拡大により店頭での販売価格が下がる可能性があるわけだ。

これに加え、大手各社はPB(プライベートブランド)商品の開発を進めている。PB商品とは小売業者がメーカーとともに開発した自社専用の商品のことで、一般的な商品と比べて価格が安い。PB商品は一定の発注数が見込めないとメーカーが受けてくれないので、これも事業規模の拡大に伴って価格を下げられる理由の1つといえる。

一般的に直営店が多い

全国にチェーン展開するとなると、特に飲食店やアパレル、コンビニエンスストアでは、フランチャイズ(FC)の仕組みをとることも多い。しかし、ドラッグストアは直営店で事業を進めるのが一般的になっている。

フランチャイズでは売り上げや利益を本部と加盟店で分け合うため、どうしても本部に入ってくる金額が小さくなる。その一方、直営店では全額が運営企業の利益になるため、一定の利益を確保するために必要な仕入れ値に対する上乗せ分を小さくし、販売価格を下げることが可能になる。

テンプレ式で出店?

ドラッグストアに行って気付くのは、同じ会社なら、どこに行っても似たようなレイアウトになっていることだ。商業ビルの一角に出店する場合はこの限りではないが、路面店では店の大きさから棚の並び方、品ぞろえまで、ほとんど同じ傾向が顕著だ。

市場規模が拡大する中、ドラッグストア各社は半ば「出店競争」を演じている。停滞した市場と異なり、店舗数の増加が地域でのシェア拡大につながり、売り上げの拡大につながるからだ。

この点、例えばアパレルや食品スーパーは沖縄と北海道、太平洋側と日本海側など、出店エリアごとに売れ筋商品が大きく変わるため、地域ごとに店作りや商品ラインアップを変える必要がある。一方、ドラッグストアは食品など一部商品を除き、エリアごとにそこまで大きな差異はない。まるで「テンプレート」のように同じ店を、高速で出店できるわけである。

それが市場や企業業績の拡大につながり、上述のように、規模のメリットを生み、だから低価格を実現し、また市場と業績が拡大し…という循環に入る。ドラッグストア業界は、こうして他業態の市場を奪いながら、今なお成長を続けている。

文・MONEY TIMES編集部

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