誰もが耳にしたことのある言葉「天下り」。キャリア官僚が出身省庁の力の及ぶ先に高待遇で再就職すること、と漠然と思い描く人も多いはず。特に新型コロナウイルス禍の今のように、民間企業の先行きが見通しにくい状況になると、何かとやり玉にあげられる天下りだが、そもそも違法行為なのか。違法だとして、なぜなくならないのか。

2017年、文科次官らを処分

2017年3月31日に日本経済新聞が配信した記事によると、文部科学省は同省による組織的な再就職あっせんで、歴代事務次官8人を含む37人を処分したという。当時の文部科学大臣は会見を開いて、「国民の信頼を失ったと感じている。文科省の組織風土を改める」と述べるに至った。

「天下り」とは、同期との出世競争が決着した官僚が退職し、出身官庁が所管する外郭団体や関連する民間企業、独立行政法人、国立大学法人、特殊法人などへの再就職について、あっせんを受ける利権行為を指す。

基本的には中央官庁の話に使われるが、時に民間企業役員や地方公務員が子会社や関連した団体に籍を移す事例に流用されることもある。いずれにしても、この天下りの言葉自体には批判的なニュアンスが含まれている。

2008年に法改正

前述の日経新聞の記事によると、2017年2月の中間まとめ以降、同省の調査で新たに27件の違反が判明し、違法な事案は2010~16年の計62件となったという。ここでいう「違法」とは、国家公務員法に違反していることを指している。

内閣府作成の資料によると、2008年12月31日の改正国家公務員法施行により、再就職に関する行為規制が導入され、規制の違反行為に関する監視体制が整備された。内閣府内には法改正と同時に再就職等監視委員会が置かれ、内閣総理大臣の権限委任を受け、後述する再就職規制に反する行為がないか、中立・公正の立場で調査や勧告を行っている。

法改正の内容は、①現職の職員による再就職のあっせんは全面的に禁止する、②現職の職員による利害関係企業などへの求職活動を規制する、③現職職員の働き掛けを規制する、となる。①は2009年12月31日までが移行期間とされ、その間は承認を得た場合のみ各府省によるあっせんが可能とされていた。

再び文科省の事案でいうと、違法事案のうち半数で、仲介役のOBを経由せず、現役職員が直接関わっていたという。

なぜ、なくならないのか

そもそも、国家公務員として中央省庁に入り、それなりの地位に昇りつめるためには、学生時代から人一倍よく勉強して難関試験を突破し、入省・入庁後も朝晩となく働く必要がある。そして、場合によっては地方や外国への転勤もあり、公務員生活を通して幅広い経験を積むことになる。

そうした優秀で経験豊富な人材が早期に退職した場合、その人材をうまく活用できないのは、大げさに表現すれば、社会的な損失とも言える。だから、優秀な人材が退官後もしかるべき立場で力を発揮すること自体は歓迎すべきなのだろう。

問題は前述の通り、いかにも自分たちの息のかかった企業や団体に再就職すること。利権関係を強くしてしまうからだ。それなのに天下りがなくならないのは、官庁側、受け入れ側の双方にメリットがあるからといえる。

つまり、受け入れ側には省庁の考え方や仕事の進め方をよく理解した人材を獲得できる利点がある。省庁側は出世の見込みがなくなった人材をいつまでも置いておくわけにもいかず、その行き先を確保できる。

日本型の終身雇用も影響

天下りがなくならない理由は、それだけではない。民間企業も含め、日本型の終身雇用、年功賃金が関係している。

そもそも、組織は三角形の構造であることが多い。つまり、企業でいえば、平社員が最も多く、係長、課長、部長と昇進するに従ってポストの数が減っていく。晴れて役員になれるのは、ほんの一握りだ。

それでも、公務員なら日本経済が、企業なら事業規模が拡大しているうちは、組織が拡大してポストが増えていくので問題なかった。しかし、潮目が変われば組織の三角形は固定化し、ポストの数は限られるようになる。終身雇用と年功賃金の制度下では、基本的には退職させられることがない。そして、雇用期間が長くなるにつれて賃金が上がるため、ことさら中央省庁では制度と組織に矛盾が生じる。

官僚の天下りで主に問題視されるのは、主に難関の国家公務員Ⅰ種試験を通ったキャリア官僚で、出世スピードが速く、早期に上位の役職へ達してポストが足りなくなる。一方、ノンキャリアと呼ばれる一般の職員は終身雇用や年功賃金を維持できるとなれば、制度か組織のいずれかを大幅に変更しなければならない。

「必要悪」?

結局、その中間をとった形が「天下り」ともいえる。固定化した三角形の組織のまま、基本的には終身雇用・年功賃金の制度を残し、双方にメリットのある状況で人材を融通し合っていることだ。そうした観点から、天下りを「必要悪」と捉える向きもある。

ただ、今では国家公務員法も改正されて「違法」となる要件が厳しくなっている。もとより、省庁と関連する企業・団体の「なれ合い」を生むような関係は好ましくない。そういう意味では、違法か適法かという観点はもちろんのこと、国民の目から見て望ましいかどうかの視点も大切だろう。

文・MONEY TIMES編集部

【関連記事】
サラリーマンができる9つの節税対策 医療費控除、住宅ローン控除、扶養控除……
退職金の相場は?会社員は平均いくらもらえるのか
後悔必至...株価「爆上げ」銘柄3選コロナが追い風で15倍に...!?
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング|手数料やツールを徹底比較
1万円以下で買える!米国株(アメリカ株)おすすめの高配当利回りランキングTOP10!