安倍晋三元首相の国葬をめぐり、世論が二分している。安倍氏の政治的評価が割れている中で、費用の全額を国費でまかなう国葬の実施に反対意見があるからだ。実際のところ、国葬にはいくらかかり、一般的な葬儀と比べて、どれほどの違いがあるのだろうか。

中曽根元首相の内閣・自民党合同葬2億円弱がメルクマール

政府は安倍氏の国葬にかかる費用をまだ公表していない。しかし、8月9日に立憲民主党などが行った合同ヒアリングの中で、内閣府の担当者はおおよその規模感を示した。

担当者が国葬費用の目安として引き合いに出したのが、2020年10月に行われた中曽根康弘元首相の葬儀で、費用は2億円弱だった。

中曽根氏の葬儀は、内閣・自民党の合同葬として実施された。費用は政府と自民党で折半した。内閣府の担当者はヒアリングの中で、この2億円弱を「一つのメルクマール(指標)」と説明しており、2億円が意識される金額になるだろう。

ちなみに、中曽根氏の合同葬費用の内訳は、会場内の警備、音響、映像など「雑役務費」が約1億3,600万円、会場賃料(東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪)が約5,500万円だった。

安倍氏の国葬は、多数の海外要人の参列が見込まれている。そうした要人の警備費などを含めると、費用は20億円を超えるとの見方もある。

歴代首相経験者の葬儀費用は?

歴代の首相経験者の葬儀には、どれほどの費用が投じられたのか。

戦後、安倍氏を除いて国葬が行われた首相経験者は、吉田茂元首相しかいない。吉田氏の国葬は日本武道館(東京・千代田区)で実施され、海外の使節団などが参列した。1967年の吉田氏の国葬に政府が投じた費用は約1,800万円で、現在の貨幣価値に換算すると7,560万円に上るという。

内閣・自民党合同葬は、中曽根氏以外の開催実績もある。例えば、1991~1993年にわたって首相を務めた宮沢喜一氏の合同葬の費用は1億5,400万円だった。近年、実施された内閣・自民党合同葬の例は以下の通りだ。

首相経験者 開催年 費用
中曽根康弘 2020 1億9,300万円
宮沢喜一 2007 1億5,400万円
橋本龍太郎 2006 1億5,400万円
鈴木善幸 2004 1億900万円
小渕恵三 2000 1億5,100万円
福田赳夫 1995 1億4,700万円

一般的な葬儀費用はいくら?

首相経験者の葬儀費用が1億円を超えるのと比べ、一般的な葬儀費用の相場はずっと安い。

平均相場は約208万円

終活に関わる情報サービスを提供している鎌倉新書が行った「お葬式に関する全国調査(2020年)」によると、葬儀費用の平均相場は約208万円だった。

これには通夜振る舞いといった飲食接待費が含まれており、国葬と比較するにはこうした諸経費を差し引く必要があるだろう。

葬儀に関する飲食費31万3,800円

葬儀に関連してかかる飲食費には、「通夜振る舞い」や「精進落とし」がある。いずれも弔問客らに出されるものだ。通夜振る舞いはサンドイッチやオードブルなど、簡単につまめる食事を大皿で提供することが多い。

一方、精進落としは火葬や初七日法要の後に行われるのが一般的。1人ずつ食べられる弁当や懐石料理として用意されるケースが多い。飲食費用の平均は31万3,800円だった。

香典返しなど返礼品に33万7,600円

葬儀に際しては、弔問客全員に渡す「会葬御礼」や「香典返し」など、返礼品に一定の費用がかかる。参列者の人数や香典を辞退するかにもよるが、平均費用は33万7,600円だった。

お布施23万6,900円

仏式で葬儀を行うと、僧侶にお布施を渡す必要がある。お布施には読経料や戒名料が含まれ、神式では「御祭祀料」、キリスト教では「献金」として渡す。平均費用は23万6,900円だった。

飲食費などを差し引くと約119万円

葬儀費用の平均相場約208万円から飲食、返礼品、お布施にかかった平均費用を差し引くと、約119万円になる。

仮に、安倍氏の国葬費用を2億円と想定すると、一般的な葬儀費用の実に168倍だ。

公費投入に明確な基準なく 費用の高騰は人心離反を招くおそれも

首相経験者の葬儀のあり方をめぐって、世論が二分するのはこれが初めてではない。2020年に行われた中曽根氏の内閣・自民党合同葬の際も、1億9,300万円の半分にあたる9,600万円を政府が支出することに批判が向けられた。

国葬を含め、どのような場合に特定の人物の葬儀に公費を投じるのか、明確な基準がないことも混乱に拍車をかける一因と見られる。また、費用の側面だけでなく、内心の自由にあたる弔意が強制されることはないのかも、国葬をめぐる論点の1つだ。

安倍氏の国葬費用が一般的な水準からかけ離れるほど、国民の理解を得るのが難しくなるおそれがある。結果的にいくらになるかは、引き続き関心を集めるだろう。

文・MONEY TIMES編集部

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