2022年7月31日、イギリスの新聞が「トヨタ自動車が、イギリスでの生産から撤退する可能性があると英政府に警告」したことを報じた。イギリス政府は現在、脱炭素化にかかわる自動車販売の法整備を進めており、トヨタには不利な法律になる可能性があるからだ。
トヨタが政府に対し、このように強気に出るのはなぜなのか。トヨタのイギリス進出の経緯や、EVを推進するヨーロッパの動きを見ながら考察する。
トヨタ、2030年に英国でHV販売禁止なら撤退を示唆
イギリスの新聞「サンデー・テレグラフ」によると、イギリスが2030年にハイブリッド車(HV)の販売を禁止した場合、トヨタ自動車はイギリスから撤退すると政府に警告したという。
2020年にイギリス政府は、「電気自動車(EV)促進のため、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止する方針」を発表した。2022年中には、自動車の新車販売についての法案化の予定。法案は以下のような内容になるとされている。
①ガソリン車・ディーゼル車の新車販売は2030年に禁止 ②EVの走行基準を満たした一部のプラグインハイブリッド車(PHV)については、2035年まで販売を認める
トヨタがイギリスの工場で生産しているのはHVの「カローラ」「プリウスであり、法案の②に当てはまるPHVは生産していない。上記の法案が実際に法律として成立すると、トヨタはイギリスの工場で生産した自動車を販売できなくなってしまうのだ。
欧米で進むEV促進の流れと日本の立ち位置
イギリスに限らず欧米では脱炭素化の流れからガソリン車・ディーゼル車を禁止し、EVを普及させる流れが進んでいる。
欧米に比べ、日本の温暖化対策・脱炭素化に対する取り組みは遅れている。2021年のCOP26(気候変動枠組条約締結国会議)では、「2035年までに主要市場、2040年までに全世界ですべての新車販売をゼロエミッション車(ZEV)にする」という宣言に対し、日本は国としてもメーカー単位としても署名しなかった。
なお、アメリカやドイツ、中国も国としては署名しなかったが、アメリカのフォードやGM、ドイツのメルセデス・ベンツ、中国のBYDといったメーカー単位で署名している。
トヨタが英国の自動車産業に及ぼしている影響
そもそも、トヨタはイギリス政府からの要請を受け、1992年にイギリスに進出した。イギリスに2ヵ所の工場を置き、現地で3,000人を雇用している。イギリス自動車工業会によると、2021年にトヨタがイギリスで生産した自動車は約12万5,000台で、これはイギリスで生産される自動車の約15%を占める。
トヨタはイギリス政府との協議で、HVの販売を制限されると、生産や販売だけでなく、将来の投資にも影響が及ぶと訴えている。トヨタはこれまでにイギリスに対して4,400億円以上の投資を行ってきた。
90年代前半には、トヨタのほかに日産自動車やホンダもイギリスに進出したが、ホンダは2021年にイギリスから撤退。トヨタがイギリスでの生産から撤退すると、工場がある地域の経済にも大きな打撃を与えるだろう。
早急なEVへの移行は可能か?
EV化を推進するイギリスだが、EVへの移行がスムーズに行くかどうかは疑問だ。イギリス自動車工業会が2020年に行った調査によると「ドライバーの44%は、2035年までにEVを購入する準備ができていない」と答えている。
一方、トヨタは「2035年には西ヨーロッパで販売するすべての新車をZEVにする計画がある」としている。また「今、現在イギリスで生産している車の最大90%はHV車だが、ヨーロッパのCO2排出量目標を達成できなかったことは一度もない」とも主張している。
ユーザーの立場を考えると、HVよりも高価なEVを2035年までに購入せよという政府の方針は現実的ではない。「100%ZEV販売に移行する段階として、CO2の排出量の面で問題のないHV販売を認めてほしい」というのがトヨタの言い分だろう。
強気の姿勢は英国自動車産業への貢献に対する自負からか
トヨタが見せたイギリス政府への強気な姿勢からは、自社がイギリスの産業や雇用に貢献しているという自負がうかがえる。トヨタもイギリス政府も、100%ZEV販売を実現したいというゴールは同じだ。目標に到達する過程について、双方がうまく折り合えるか今後の動きが注目される。
文・はせがわあきこ
【関連記事】
・サラリーマンができる9つの節税対策 医療費控除、住宅ローン控除、扶養控除……
・退職金の相場は?会社員は平均いくらもらえるのか
・後悔必至...株価「爆上げ」銘柄3選コロナが追い風で15倍に...!?
・【初心者向け】ネット証券おすすめランキング|手数料やツールを徹底比較
・1万円以下で買える!米国株(アメリカ株)おすすめの高配当利回りランキングTOP10!