高知県を流れる四国最長の川、四万十川。「最後の清流」、そんな呼ばれ方もする四万十川のシンボルともいえるのが、「沈下橋(ちんかばし)」です。名前の通り、川が増水したときに、水中に沈むように設計されており、なんと橋につきものの欄干(手すり)がありません。このシンプルで素朴な橋がゆったりと川にかかるさまは、訪れる人々の心をほっこり和ませています。

なぜこの橋はこのような設計をされたのか、そしてなぜ人々を魅了するのか。そんな、沈下橋に隠された物語を知れば、四万十川への旅が何倍にも魅力的になります。

この記事は、6年前に東京からこの沈下橋のすぐ近くに移住し、その魅力に身近に触れてきた、沈下橋マニアのライターがお届けいたします!

目次
沈下橋ってどんな橋?
四万十川と沈下橋、その深いカンケイ

沈下橋ってどんな橋?

沈下橋(ちんかばし)とは、橋につきものの「欄干(手すり)」がない橋のこと。構成がシンプルなので、造るための費用が少なくて済みます。また、川が氾濫・増水しても、土砂や流木が引っかかることを避けられるため、壊れにくいことが特徴です。

実際よく沈む? 四万十川の沈下橋とは~おすすめの沈下橋3選付き~
(画像=『たびこふれ』より引用)

<高瀬沈下橋>

川が増水すると、沈下橋はそのまま川に沈み、たいていは1日~2日経って水が引くと、何事もなかったかのようにもとに戻ります。

こうした橋は、地域によって「沈み橋」「潜水橋」「潜り橋」など、色々な呼び名で呼ばれていますが、沈下橋と呼ぶのは主に高知県のようです。

四万十川と沈下橋、その深いカンケイ

さて、なぜこの四万十川には、沈下橋のような独特なスタイルの橋がかかったのでしょうか?

四万十川の特徴は、流れが蛇行し緩やかなこと、かつ河口付近の汽水域(海水と淡水が混ざるエリア)が広いために、多くの魚が生息する大変恵みの豊かな川であるという点です。

実際よく沈む? 四万十川の沈下橋とは~おすすめの沈下橋3選付き~
(画像=『たびこふれ』より引用)

<蛇行する四万十川と岩間大橋>

豊富な水資源を背景に、地域には田畑も広がり、多くの住民が川と共存して暮らしてきました。そんな人々にとって、川を渡って岸を往来することは重要なインフラです。かつては渡し舟がその役割を果たしていましたが、自動車の普及等もあり、橋の必要性が高まってきました。

しかし高知県は台風が通過することも多く、四万十川は「暴れ川」と言われるほど、頻繁に氾濫もします。ここにもし、一般的な欄干のある橋をかけようとすると、莫大な費用がかかる上、増水の度に土砂や流木が引っかかり、しょっちゅう壊れたり、流されたりしてしまうかもしれません。そうした修理費用もかさみます。

そこで考え出されたのが、「造るのにお金がかからない、そして、増水時にはそのまま川に沈んでしまって壊れる可能性も少ない」沈下橋だったのです。

欄干のない橋は、造るときにも費用を抑えることができますし、壊れるリスクも減らすことができます。もちろん、橋は沈んでしまえば、渡ることはできません。しかし、少し時間が経てば必ず水は引いて、また何事もなかったかのように橋を渡ることができます。

四万十川と共生し、その特性を知り尽くした人々の「自然には逆らわず、受け流す」という生きざまが、そのままシンボルとしての沈下橋に表現され、ここに唯一無二の風情を生み出しているのです。