韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が2022年5月に発足した。5年ぶりの保守政権だ。韓国では、政権が代わるたびに前任の大統領が逮捕されたり自殺に追い込まれたりと、悲惨な末路をたどっている。韓国で、無事に余生を送れた大統領経験者はいるのだろうか。

検察の捜査権に先手を打った文在寅前大統領

韓国で目下の焦点は、尹氏の前任者、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領に捜査当局の手が及ぶかどうかだ。文氏をめぐっては、政権時の不当人事に関する疑惑や選挙に関する疑惑が次々と浮上しており、文氏に対する風当たりは強まっている。

もっとも、文氏はこうした事態に発展することを見越して、先手を打っていた。大統領在任中に、検察が持つ強力な捜査権を縮小する法改正を、当時の与党「共に民主党」が強行していたのだ。改正法の施行は2022年9月に迫っており、検察は追及の手を強めているとされる。

大統領経験者の逮捕といえば、朴槿恵(パク・クネ)元大統領が記憶に新しい。朴氏は職権乱用などの罪で逮捕・起訴され、懲役20年の実刑が言い渡された。朴氏は2021年12月31日付で恩赦が与えられ釈放されたが、朴氏の父で大統領を務めた朴正煕(パク・チョンヒ)氏は部下に暗殺されたことで有名だ。

李承晩初代大統領は亡命

韓国大統領経験者の悲運は、初代の李承晩(イ・スンマン)までさかのぼる。李は1950年からの朝鮮戦争を戦い、戦後は独裁体制を敷いた。民衆弾圧などにも手を染め、軍事独裁色を強めたが、1960年の不正選挙に端を発した学生らによるデモ「四月革命」で失脚し、ハワイに亡命した。

李は亡命から5年後にハワイで病死している。李といえば、竹島(島根県隠岐の島町)を一方的に取り込んだ「李承晩ライン」を設定したことでも知られる。

第5〜9代大統領であった朴正煕は、軍事クーデターによって政権を掌握した人物だ。アジアの最貧国の1つにすぎなかった韓国を豊かにし、「漢江の軌跡」ともいわれる経済成長を実現した一方、弾圧政治も行っていたとして、その評価は相半ばする。

朴正煕は日本陸軍士官学校の卒業生であることも有名で、最期は当時のKCIA(大韓民国中央情報部)の部下に射殺された。

死刑宣告の全斗煥

朴正煕の暗殺後、韓国で長期政権を築いたのが全斗煥(チョン・ドゥファン)だ。全は朴の暗殺をめぐる混乱を収拾する中で政権を掌握し、軍事独裁を敷いた。

政権を掌握する過程では大規模な反政府運動が起き、これを武力で鎮圧した。「光州事件」として知られる民主化運動の弾圧は多数の死者を伴い、全は後にこの事件の責任を問われて死刑判決を受ける。

民主化にかじを切った盧泰愚も実刑

民主化を求める声の高まりを受けて、盧泰愚(ノ・テウ)は軍人出身でありながら、大統領候補として民主化を宣言し、1988年の選挙で第13代大統領の座を射止めた。

盧の政権下で韓国は1988年のソウルオリンピックを成功させ、南北関係の改善などにも寄与した。しかし、盧も全と同様に「光州事件」の責任などを問われ、懲役刑を科された。

全も盧も後に恩赦で釈放されているが、盧が晩年を贖罪にあてたのとは反対に、全は反省の意思を示さなかったとされる。盧の死去に際して国家葬が執り行われたのとは対照的に、全の死去では国家葬などは開かれなかった。

自殺した廬武鉉

第16代大統領の盧武鉉(ノ・ムヒョン)は、崖から身を投じ自殺した。廬は人権派弁護士から政治家に転身し、大統領に上り詰めた人物だ。しかし、退任後は親族の不正疑惑が浮上していた。文在寅は盧の側近だった。

余生を無事に全うできたのは4人

韓国の大統領経験者で、退任後に無事に余生を全うできたのは、以下の4人のみだ。

・尹潽善(ユン・ボソン)
・崔圭夏(チェ・ギュハ)
・金泳三(キム・ヨンサム)
・金大中(キム・デジュン)

もっとも、金泳三と金大中は、任期の後半に息子らが収賄などの容疑で逮捕されている。

韓国で大統領経験者の逮捕が繰り返されるのはなぜか?

亡命、暗殺、死刑宣告と、韓国の歴代大統領経験者らは悲運に見舞われてきた。韓国ではなぜ、こうも大統領経験者が悲惨な末路をたどるのか。その背景にあるものとして指摘されているのが、韓国大統領権限の強さだ。

韓国大統領は国民の直接投票によって選ばれ、閣僚や公務員の任命権を持つだけでなく、国会への予算案提出権や国会で可決された法律を拒否する権限も有する。

こうした権限の強大さが、大統領周辺での不正や汚職を引き起こすと同時に、政権を退いた後、次の政権が振るう強大な権限のターゲットになるわけだ。

韓国大統領経験者の悲運は続くのか

以上のことを踏まえると、韓国で大統領経験者が悲惨な末路をたどるのには、構造的な要因もあるといえる。政権交代で保守と革新の勢力が入れ替わるたびに、大統領経験者が憂き目を見るサイクルは今後も続くかもしれない。

文・MONEY TIMES編集部

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