目次
フリーランスには「何かあったときの受け皿」が必要
「夢敗れた人たち」を社会がどう支えるか

フリーランスには「何かあったときの受け皿」が必要

少年B:
「フリーランスは群れない、ひとりだ」というイメージがありましたが、フリーランス同士の横のつながりや、仕事相手との関係性って大事なんですね……。

松永:
フリーランスの働きかたを見ていると、やはり最大のリスクはセーフティーネットが乏しいということなんですよね。ひとりでやっていけなくなったときが辛い。

でも、セーフティーネットが乏しいってだけでフリーランスという働きかたが批判されるべきではないとも思います。

少年B:
以前お話をうかがった、ITフリーランス支援機構の方々もそうおっしゃっていました。セーフティーネットが乏しいのは事実だけど、それはフリーランスの自己責任とは別の話だと。

松永:
そうやって、実際に動いている方がいらっしゃるのはありがたいし、心強いですね。

大事なのは、何かあったときのための受け皿があるって状況なんですよ。今であればファンクションミュージシャンやゲーム制作の例で出したような、「コミュニティ」やアニメーターが集まる会社がその役割を担っていると考えられます。

少年B:
仕事のやりとりができる場というか。

松永:
そこまではいかなくても、たとえば顔なじみになって雑談を交わす程度の「場」でも必要だと思うんですよ。これはバーなどのお店であったり、オンラインコミュニティでもいいので。

ひとりで働いていると、トラブルが起きた際にもよくある事例なのか、特別な出来事なのかが判断できませんよね。ヤバい仕事相手の話は、同業者しか分からないんです。

フリーランスに必要なのは、ゆるいコミュニティ? アニメ業界に学ぶ生き残り戦略
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
最近オンラインサロンが流行っているのはそういう部分があるのかもしれませんね……。Workshipにも「フリラボ」というオンライン上のゆるいフリーランスコミュニティがあります。

松永:
それは有益なことだと思いますよ。フリーランスのトラブルは個別性が強いので、人の数だけ問題があると言ってもいいぐらいなんですね。

だから、たとえ仕事のやり取りがなくても、雑談からトラブルの解決法が生まれたりする。同業者の集う場があれば、ある程度リスクを吸収できるんです。

少年B:
会社じゃなくて個人でもないとすると、組合とかが目指す形になるんでしょうか。

フリーランスに必要なのは、ゆるいコミュニティ? アニメ業界に学ぶ生き残り戦略
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

松永:
うーん、機能的には似ているかもしれませんが、組合っていうと基本的には労働者が団結して交渉していくための組織なので、ちょっと違うのかな、という感じがしますよね。

フリーランスでも、さまざまな意識を持っている方がいると思います。「いち労働者」という意識が強いフリーランスなら労働組合がほしいと考えるでしょうし、いち個人・いち起業家という意識が強ければ、ちょっとミスマッチかな?と思います。

少年B:
フリーランス側の意識の問題もあるんですね。

「夢敗れた人たち」を社会がどう支えるか

松永:
今のUberとかを見ていても思うんですが、今後フリーランスという働きかたが広まっていくと、フリーランスも会社員と変わらない「いち労働者」としての側面が強くなるんじゃないかと考えています。

ただ、会社員のように「お金を稼ぐため」にフリーランスをやる人だけじゃなくて、仕事や業界にコミットするためにフリーランスになる人もいますよね。後者はたとえば「作家でありたい」「音楽で食っていくんだ」みたいな動機で、フリーランスを選ぶ人もいる。

少年B:
「この仕事で食っていきたい」みたいな、夢を追うタイプの人ですよね。確かにフリーランスには多い気もします。

松永:
前者と後者にはどこかに線を引ける部分があると思うんです。前者は労働組合でいいと思うんですが、後者のコミュニティをどう作っていくかが社会としての課題じゃないかなと思います。

少年B:
なるほど……。

フリーランスに必要なのは、ゆるいコミュニティ? アニメ業界に学ぶ生き残り戦略
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

松永:
少年Bさんの言う「ゆるいコミュニティ」がヒントになるのかな……。ガチガチの組織というわけではないけど、助け合いの機能はあるという。

そういったコミュニティは世の中にちょこちょこあるんですが、これをもう少し制度化するにはどうしたらいいか、どういう法律に基づいてそれを考えていけばいいのか、というのは研究者を含めてみんなが頭をひねっている状態です。

少年B:
先ほども話に出た、ITフリーランス支援機構の方々に取材をした際、「フリーランスの方々には個人事業主として意識を高く持って働いてほしい。我々もそれを支援するためにがんばるから」とおっしゃっていたのが印象的だったんですが、「仕事や業界にコミットするフリーランス」のコミュニティ不足の話を聞いて、繋がっているなぁと思いました。

松永:
まさしくそうだと思いますね。労働者には長い歴史があるので、世界中にノウハウが蓄積されているんですが、フリーランスはノウハウが不足している部分があると思います。

また、これはフリーランスに限らず、一部の会社員もそうなんですが、今は「自分で仕事を作りたい」「市場を開拓したい」と、ある種の経営者意識がある人が多いんですよね。

少年B:
あー、いわゆる意識の高い人たち。

松永:
意識を高く持っている人もそうですし、仕事が好きだったり、やりがいを求めて働いている人たちは、労働者ではあるんだけど、意識の上では伝統的な労働者とはちょっと違う。そういう人は、訴えたいことの中心が労働条件の改善や経済的地位の向上ではない場合もあると思うので、やっぱり労働組合とは相性が悪いんです。

これは研究者のなかでも意見が割れていて、「労働者は労働者なんだから」という人もいるんですが、私個人としては、時代の変化による不可逆的なものだと考えています。

フリーランスに必要なのは、ゆるいコミュニティ? アニメ業界に学ぶ生き残り戦略
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
わたしは会社員時代「給与をもらうために毎日8時間耐えるぞ」って意識だったので、思いっきり労働者意識がありましたが、今はそういう時代ではないと……。

松永:
そうです。ただ、現状だと成功者と失敗者がはっきり分かれてしまう状態ですよね。夢が破れてしまった人に対してのセーフティーネットがない。

だから、今後はフリーランスはもちろん、そういう会社員の人に対してもどういう受け皿を用意するかといったことが大きな課題になってくると思います。

少年B:
「労働者意識でなく働いている人」へのセーフティーネットが必要で、そのカギはゆるいコミュニティにある、ということですね。本日はどうもありがとうございました!

(執筆:少年B 編集:齊藤颯人)

提供元・Workship MAGAZINE

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