代替財か補完財か

なお、ここでは反・脱原発の世論が追い風となった風力発電エネルギーについて、高田保馬のいう経済学上の補完財と代替財からの説明を追加しておきみたい注2)。

まずは、発電したり電力を使ったりする経済行為の目的物、すなわち個人または法人による獲得行為の対象となる経済財を、経済学の伝統に従って生産財と消費財に大別する。

電力が自動車の製造に不可欠なように、またセメントが住宅建設に利用されるように、他の財の生産に役立つものが生産財である。同じく、個人が飲食したり、ブランド商品を着用して、みずからの欲求を充足させるものが消費財である(高田、1953:14)。

飲み物、着物、薬、自動車、テレビ、パソコン、携帯電話などはそれぞれに効用があり、一定の財がある主体の欲望をみたし得ると認められた性質と見なされ、「見積もられたる有利さ」(同上:14)とものべられている。

電力は全ての産業活動と国民生活の基盤であり、あらゆる生産財と消費財に役に立つ根本的な生産消費財でもある。高田は消費財の効用に関して補完性(complementary)と代替性(substitutable)に分けている(同上:156)が、電力に限定していえば、生産財としての側面もまたその両者の分類が可能になる。

なぜなら、火力発電(X1)や原子力発電(X2)による電力(X=X1+X2)と太陽光や風力による発電(Y)は、その品質の点でまた供給の安定性の面で、著しい相違が認められるからである。

原発停止の歴史

すなわち東日本大震災の福島原発人災を受けて以降、日本全国にある原発50基がすべて停止してきた歴史があり、加えて反・廃・脱原発の世論が強く、将来的にもXYの二財間ではX(特にX1)面の不足が明らかである。

10年後の今日でも、再稼働している原発は4基に止まり、規制審査に合格した6基は動いておらず、廃炉も24基にのぼる。そこでYへの期待が強まり、日本各地で太陽光発電と風力発電の「再エネ」計画がたくさん出されてきた注3)。

一般的にいえば、XY間にはXの減少のときにYの効用が強まるのならば、YはXにとって代替的であり、弱まるならば補完的である。多くの場合、XY間は代替関係が支配的になる。XY間が逆相関にある代替機能が生産財にも消費財にも生まれることもある。