目次
突然の契約解除!そのときどうするのが正解?
不当な契約打ち切りとセクハラ・パワハラに効く対処法
突然の契約解除!そのときどうするのが正解?
河野:
ちなみに、そもそもの話になりますが、「相手のほうから契約を解除したことになっている」という状況が明らかになっている時点で、フリーランス側としてはかなりうまくやっているんですよ。
ぽな:
そうなんですか!? いったいなぜ……?
河野:
これは、前にもお話しましたが、たとえ違法な依頼であっても、フリーランス側からばっくれるのは危険なんです。だから、契約解除の問題を考える上では、こっちからアクションを起こしたという形にするよりも、先方から解除してもらったという形にしておいた方が何かと有利なんですよ。
ぽな:
なるほど……! その発想はなかったです。
でも先生、こちらが降りたがっている案件だったら渡りに船ですけど、自分が続けたいと思っている仕事を先方から一方的に解除されたら……。ショックが大きくて立ち直れなさそうです。
河野:
それはそうでしょうねぇ。
ぽな:
ある程度続いている仕事だと、それを見越して、スケジュールも空けていたりするわけじゃないですか。たとえばライターの場合だと、「このメディアで毎月1本書く」みたいなスケジュール感で動いていることもありますよね。
こういった継続的な依頼があるようなケースで、突然「来月から、もう書いてくれなくていいです」なんて言われちゃったら……。我々フリーランスは、おとなしく解除に応じるしかないのでしょうか。
河野:
そういった継続的に依頼を受けているようなケースでは、場合分けして考える必要があります。まず契約期間が決まっている場合、途中で勝手に解除するのはできないというのが原則だと思います。
ぽな:
たとえば、「8月から12月まで、3ヶ月間連載してください」と言われていたような場合ですね。
河野:
そうです。一方、いつまでやるのか明確に期間を決めていない場合もありますよね。
その場合は、もともといつまで続くのかわからない前提で契約していますので、いつでも解除できる。そうじゃないと、逆に死ぬまで契約が続くということにもなりかねませんので。それはそれでおかしな話ですよね。
ぽな:
たしかに……。
河野:
ただ、ここで気をつけておかなければならないのは、いくら自由に解除できるとはいっても、信義則上、相手に損害を与えてはいけないということです。これを、「継続的契約の法理」といいます。
ずっと契約が続いてきた場合、今後も続くだろうと期待して、フリーランス側としてはほかの仕事をキャンセルしたり、資料をそろえたりしているかもしれない。それなのに、突然解除されたらフリーランスは困るわけです。
ぽな:
そうですそうです、困ります!
河野:
だから、こういったケースでは「解除するなら3ヶ月前に予告してください」とか「3ヶ月分の費用を先に払ってくださいよ」というルールが裁判例を通して作られてきたわけです。法律として条文があるわけではないんですけどね。
ぽな:
なるほど……。つまるところ、他人に迷惑かけちゃいけないし、不義理なことはするなよ、ってことですね。せめて予告をして、相手に準備期間を与えてあげてね、と。
まあ、たしかに打ち切りの数ヶ月前に予告されているなら、つらいけど今後の準備はできますもんね……。
河野:
結局、そういうことになりますね。これはフリーランス側から契約を解除したいと考える場合も同じです。たとえば全12回の連載をしているにも関わらず、途中で降りてしまう。これは法的にもまずいと思います。
ぽな:
クライアントさんに迷惑をかけちゃうことになりますものねえ。お互いに迷惑かけちゃダメ、ということでしょうか。
河野:
そうですね。ただ、クライアントが途中で契約を打ち切ってくるパターンについては、一つ注意しなければいけない点があります。
たとえば、キャラクターデザインや企画のようなアイディア勝負の仕事については、立ち上げの時期が一番大変ですよね。
ぽな:
何であれ、ものごとをゼロから作るのは大変な作業ですもんね。
河野:
だから、立ち上げが終わった時点でクライアントに契約を切られてしまうと、フリーランス側としては損害が大きいわけです。なかにはフリーランスにアイディアだけ出させて、そこで契約を切っちゃうという悪質なクライアントの話も聞いたことがありますね。
ぽな:
ひ、ひどい! ひどすぎます!!!
河野:
そうなると、たとえば3ヶ月分の報酬を払って契約解除したときに「不義理じゃない」と言えるのか、という話になってきますよね。
こういったアイデア勝負の仕事をする場合は、たとえば契約段階で、各工程についての見積もりを出しておくとか、段階ごとに報酬をもらえる契約にしておく、といった予防策を考えておくといいかもしれません。
不当な契約打ち切りとセクハラ・パワハラに効く対処法
ぽな:
契約の打ち切りが問題になるケースとして、クライアントのセクハラ・パワハラが絡むケースもありますよね。たとえ打ち切られなくても、契約解除を恐れて理不尽な仕打ちに耐えているというフリーランスもいそうです。ハラスメント……とまで言わなくても、無茶振りにあうケースもあるでしょうし。
もしクライアントから理不尽な要求を受けた場合、どう対応するのが正解なのでしょうか。
河野:
まず前提として、こうしたハラスメントや無茶ぶりは独禁法違反にあたる可能性があるということは知っておいたほうがいいと思います。
どの項目に当てはまるかはケースバイケースですが、優越的な地位の濫用に当たるケースが多いのかな。この連載の初回で取り上げた、フリーランスガイドラインにも記載がありますよ。
ぽな:
おお! あの話に繋がるんですね。まだ読んでないという読者のかたは、ぜひこちらも合わせてどうぞ……と、CMをしておきます。
河野:
もっとも、セクハラやパワハラといったハラスメントに関しては、会社ぐるみというよりは、担当者個人の問題というケースがほとんどです。
だから、ハラスメント被害にあったというフリーランスは、まずは相手の上司に相談する、というのはひとつ方法としてあるだろうと思いますね。
ぽな:
上司にですか?
河野:
そうです。担当者個人にクレームを入れると、契約を切られてしまう可能性があるけれど、担当者の上司に相談した場合はそういう流れにはなりにくい。
というのも、上司がクレームの内容を知っている状態で、担当者がフリーランスを切ったとなると、やましいことがあったと自白しているようなものじゃないですか。
ぽな:
なるほど! 偉い人が知っていると、担当者にもみ消される可能性は低くなると……。
一方、実際に切られちゃった場合はどうすればいいんですかね。たとえば、担当さんにホテルに誘われて、断ったら契約を打ち切られちゃったみたいな。典型的なセクハラ事例ですが。
河野:
うーん……。でも、契約を切られちゃったなら、もう遠慮しなくていいってことですよね。しかも不当な打ち切りになるわけでしょう。
それこそ、公取に通報しようが、名誉毀損にならない範囲で事実を公表しようが、担当者個人を訴えようが……。
ぽな:
たしかに、それもそうですね。証拠さえ残っていれば、あとは煮るなり焼くなり……ぐふふふふ。
河野:
だいぶ悪い顔になってますが、超えちゃいけないラインはありますからね?
たとえば、「理不尽な要求をされた」と思っても、それを「理不尽だ」と公言してしまうとまずいことになる可能性もあります。
ぽな:
たしかに、「理不尽」だというのも個人の評価ですもんね。しかも若干非難めいたニュアンスが出ちゃうので、特にSNSだと誹謗中傷の問題に発展しそうです。
河野:
だからね、理不尽な要求をされたような場合は、それが理不尽かどうかの判断については周りの人間に任せちゃえばいいんですよ。
たとえばSNSに、「○日に妻子ある男性に交際を申し込まれたので、要求を断りました。その後、○日に契約解消を告げられました。仕事なくなっちゃったので、お仕事ください」みたいに書いてみる。
これはあくまで事実を述べただけです。それを見てどう思うかは、周りが考えることですから。
ぽな:
おお……先ほどの先生の表現ですと、「セクハラ」とは一言も言っていないですよね。主観的な評価をまったく加えない「ありのままの事実」しか書いていない……。いやはや、勉強になります。
でも、名誉毀損って「事実」を指摘した場合にも成立すると聞いたことがあるのですが……。ここまで踏み込んだ内容を書いてしまうと、まずくないですか?
河野:
うーん、絶対に大丈夫とは言い切れませんが、これくらいなら正当性が認められる範囲なんじゃないかなと。たとえ伏せ字であっても、個人名を出すとまずいと思いますが。
ぽな:
あくまでも、誰が誰だかわからないような状態にした上で、事実を淡々と書くということですね。
河野:
はい。守秘義務との関係が難しいですけれど、特に契約上問題ない場合については「契約が終わったのでスケジュール空きました」とフリーランス側が発言するのは当然だと思うんですね。
でも、このとき「フリーランス側に問題があったから切られたんじゃないか」と周囲の人に思われたら困るわけです。だから、「自分は悪くないんだ」ということは言っておかないと。これ自体は正当性のある行為だと思うんですよ。
ぽな:
問題のあるフリーランスだと思われてしまったら、仕事が来なくなっちゃいますもんね。それはまずいです。
河野:
だから、断定的にでも相手がわかるように書いちゃうとまずいけど、自分の評価を守るために必要な範囲で淡々と事実を書くというのは正当な範囲かな、というのが個人的な見解です。
ぽな:
なるほど。ただ、一般の人にとって、自分の評価を入れずに事実だけを書くって意外と難しいんじゃないかなって気もします。SNSで発言する場合は後のトラブルを防ぐためにも、慎重にやらないと……。
できれば弁護士さんに相談して、慎重に作戦を練って、という感じが理想になってくるのでしょうか。
河野:
そうですね。あとは、やりとりでも録音でもなんでもいいので証拠を残しておくことも大切です。たとえ理不尽な要求をされたとしても、その「理不尽な内容」が証明できないと、相手に言い逃れされてしまいますから。