「車齢」の制限撤廃の規制緩和に問題はなかったのか

軽井沢バス事故についての再発防止策は、「運転未熟のために操作を誤り、ニュートラルで走行したために、速度が制御できない状況となり、事故に至った」という人的事故原因を前提に、「安全対策装置の導入促進」のほか、運転者の選任、健康診断、適性診断及び運転者への指導監督の徹底など、運転手の運転技能、運転適性の確保を中心とする対策が講じられた。

しかし、もし、事故原因が車両の方にもあった場合には、再発防止策は大きく異なるものになっていたはずだ。

車両自体の危険性に関して見過ごすことができないのは、バスの「車齢」の問題である。

本件事故車両は、2002年登録で車齢13年、部品の腐食破断が原因とされた白老町バス事故の事故車両は、1994年登録で、事故時の車齢は19年である。

過去、貸切バス事業が免許制であった時代には、新規許可時の使用車両の車齢は、法定耐用年数(5年)以内とされていたのが、2000年法改正による規制緩和で、車齢の規制は撤廃された。

本件事故を受けて設置された「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」でも、「古い車両を安価で購入し、安全確保を疎かにしている事業者がいる」との指摘を受けて、車齢の制限も検討されが、同委員会に提出された資料によると車齢と事故件数の相関関係が認められないことなどから、車齢の制限は見送られた。

しかし、この時の対策委員会の資料は、「貸切バスの乗務員に起因する重大事故」とバスの車齢の相関関係を見たものであり、車両の不具合や整備不良等による事故と車齢との関係を検討したものではない。

白老町事故に関連して、同様の部品の腐食破断による事故が多数発生していたことが明らかになり、リコールが行われたことから考えても、表面化していない、車両に起因するバス事故が相当数ある可能性がある。軽井沢バス事故も、13年という、かつての法定耐用年数を大幅に超える車両で起きた事故だった。

この事故で、仮に、車両の不具合が原因の事故である可能性が指摘されていれば、「車齢の長いバスの車両の不具合による危険」の問題も取り上げられ、「車齢」と「車両の不具合に起因する事故」の相関関係についても検討され、そもそも、2000年の規制緩和における車齢規制の撤廃が適切だったのか、という議論にもなっていた可能性がある。

知床観光船事故との共通点

今年4月23日に北海道知床で発生した観光船事故と、この軽井沢バス事故は、直接の当事者の運転者が事故で死亡するなどして供述が得られないこと、運行会社の安全管理の杜撰さが問題とされていること、国交省が監督権限を持つ事業であったことなどの共通点がある。

知床観光船事故が、最近の事故であるのに対して、軽井沢バス事故は、6年前に起きた過去の重大事故であり、今後の事故の危険とは直接関係ないと思われるかもしれない。

しかし、コロナ禍での需要の急減によって苦境に喘いできた観光・旅行業界にとって、今後、外国人旅行者の受け入れが再開され、需要が増大すれば、これまでの収入減を取り戻すべく、「背に腹は代えられない」ということで、安全対策を疎かにしても、収益確保を優先する事業者が出てくる可能性が十分にある。

その際、車齢の長いバスに必然的に高まる車両の不具合による事故の危険が高まることが懸念される。知床観光船事故に関しても、監督官庁の国交省の対応が手緩かったと批判されているが、その背景に、観光・旅行業界の窮状への配慮が働いた可能性も指摘されている。同じような「手緩い対応」が、コロナ禍で苦境に喘いできた貸切バス業界に対する国交省への対応でも行われ得るのではないだろうか。

そういう面からも、軽井沢バス事故の真の事故原因は何なのか、その究明のための再調査を行い、必要に応じて再発防止策も見直すべきではないだろうか。

文・郷原 信郎/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?