社会学での「役割」という発想

そうであれば、政治の対象が年金や医療や福祉などの分野別サービスだけに特化しては、高齢者の「生きがい」問題に対応できない。なぜなら、「生きがい」は「生きる喜び」の象徴だから、その内容に関しての包括的議論が求められるからである。

それには社会学における「役割」という考え方を活用することが有効である。高齢者だけではなく人間一般に「役割」論を敷衍して、「暮らすこと」や「生きること」を「役割」を通してみていくのである。

社会学=人間の共同生活の科学

というのも、社会学は究極的には「人間の共同生活の科学」であり、それは人間論、共同生活論、科学論の三方向に枝分かれして、分割された後で最終的に統合される宿命を持つからである。

このうち人間論を人間関係における役割セット(role-set)で理解するのが社会学の個性である(マートン、1957=1961:335)。役割は必ず社会的地位に関連しており、両者が揃って社会構造を作り上げる。社会構造の下位カテゴリーには縦の関係にある権力と階層、横の関係にある地域と集団が存在する注3)。そしてすべてに老若男女個人の地位がある。