5.120兆円をどこから持ってくるか
この制度を実現するためには、毎年国は120兆円用意し続ける必要がありますが、これはどのような規模のお金でしょうか? お金は降って湧いてくるものではないので、増税するか既存の給付をカットする必要があります。
話を分かりやすくするために、全部増税でまかなう場合と、全部給付をカットする場合を例にとってみましょう。
【増税の場合】
今の国の税収は60兆円強ですから、さらに120兆円のお金を配るためには、単純に計算すると今のあらゆる税金の税率を3倍以上にしないといけません。実際には、所得税の最高税率は控除があるとしても45%ですから3倍にすることは不可能でしょう。所得税以外の法人税や消費税を3倍以上の税率に引き上げないと収支のバランスがとれないでしょう。
例えば、消費税は1%で2.5兆円くらいの税収なので、120兆円のベーシックインカムに必要なお金をすべて消費税でまかなおうとすると、単純計算でも消費税50%分と120兆円が同じくらいです(実際には消費税を大きく上げると、みんなものを買わなくなるので、50%の引き上げでは足りません)。
全員が月83,000円もらえる代わりに、消費税が60%以上になるとしたら皆さんの生活はどうなるでしょうか。
【社会保障をベーシックインカムに置き換えると】
では、増税しないとするとどうなるでしょうか。
ベーシックインカムは最低生活保障機能を実現する制度なので、社会保障と関係が非常に深く、社会保障をベーシックインカムに振り替えてはどうかという議論もあります。おそらく多くのベーシックインカム論者は少なくとも生活保護はベーシックインカムに切り替えるという前提で考えている人が多いのではないでしょうか。
実は、この社会保障の現在の給付費がちょうど120兆円程度です。この原資はほとんどすべて社会保険料と税金でまかなっています(若干、年金の積立金の運用益が使われますが、それも元は社会保険料ですね)。
つまり、現在の社会保障(生活保護、児童手当、雇用保険、医療保険、介護保険、年金など)について保険料や税負担をそのままにして、すべての制度を廃止してベーシックインカムに置き換えると、お金の計算上はつじつまが合うことになります。
6.そもそも社会保障は何のためにあるのか
上記5.の最後に書いたように、現在の社会保障について保険料や税負担をそのままにして、すべて廃止してベーシックインカムに置き換えると、お金の計算上はつじつまが合います。
その場合、何が起こるでしょうか。
例えば、急にガンなどの重い病気になって手術や高額の治療、入院などが必要になった場合は、数百万円の高額な治療費が必要になったり、その間働けないこともあります。
また、家族に要介護状態になった時、老人ホームに全額自己負担で入居させるためには毎月数十万円の出費が必要になります。介護保険がなければ親の介護のために働き盛りの子どもが仕事を辞めなくいといけなくなることもあります。
このような、家族内では支えきれないような大きなリスクを皆で分かち合うことに、社会保障本来の意味があります。
現在の社会保障を廃止してベーシックインカムだけにするということは、毎月83,000円の現金をもらうかわりに、大きな危機が訪れた時にすべて自分で何とかしなければならないことになり、社会保障が担っている機能に置き換えることはできません。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
簡単です。
同じ120兆円を使うにしても、社会保障は病気や失業、高齢など本当に困っている人に集中的にお金を使いますが、ベーシックインカムは高所得で元気な人など困っていない人にも同じように全員にお金を配るからです。