九州と韓国を海底トンネルで結ぶ壮大な計画が注目を集めている。2021年4月の釜山市長補選を前に計画が言及され、マスコミに取り上げられたからだ。調査のための掘削は始まっているが、約10兆円とされる巨額の総工費に、実現可能性を疑問視する声も根強い。

総延長は270キロメートル、総工費は約10兆円

現在の「日韓トンネル」構想の基になったのは、1981年に韓国・ソウルで開かれた「科学の統一に関する国際会議」。この中で、同会議創設者で、世界平和統一家庭連合(統一教会)創立者の文鮮明氏が「アジア大ハイウェイおよび日韓トンネル構想」を提唱した。

これを受けて1983年、東京に「日韓トンネル研究会」が設立された。同研究会のウェブサイトによると、日韓トンネルは佐賀県唐津市から対馬を経て韓国南部に位置する韓国第2の都市・釜山市に至る。総延長距離は270キロで、このうち海底を通るのは150キロ。着工すれば約10年で完工し、総工費は約10兆円に及ぶという。

日本国内を代表する海底トンネルである「東京湾アクアライン」は、延長が約15キロ(このうち海底部分は約10キロ、橋部分が約5キロ)で、総工費は約1兆4,400億円。構想中の日韓トンネルの延長は東京湾アクアラインの18倍、総工費は7倍に当たる規模の事業となっている。

ルーツは戦前にあり?

この計画は前述の通り、韓国側から出てきた話なのだが、実はルーツをたどると、戦前の日本に行き当たるという。当時の大日本帝国は「大東亜縦貫鉄道」という構想を掲げ、日本から海底トンネルで韓国に至り、そこからアジアを抜けてヨーロッパに至る鉄道網を計画していたとされ、これが最も大元の計画だと言われる。

その後、スーパーゼネコンの大林組が「ユーラシア・ドライブウェイ」という構想を掲げたこともあった。当時の資料を見ると、さすが大手建設会社だけあって、計画は精緻で、どのようなルートに、どのような大きさの構造物を設けるかまで具体的に想定されている。

現在の日韓トンネル計画は、こうした諸々の構想をなぞるような形で存在している。1981年の「科学の統一に関する国際会議」でも、位置づけとしてはアジアを結ぶ国際的なハイウェイ網構想の起点とされていた。

提唱者が変わりながら何度も浮上しては消えた日韓トンネル構想。それが今も度々話題になるのは、時たま政治の表舞台で言及されるからだ。

日韓トンネル研究会のウェブサイトによると、1990年、韓国の盧泰愚大統領(当時)は日本の国会で演説した際に日韓トンネルの有用性を訴え、翌1991年、日本の海部俊樹首相(同)が訪韓時に賛意を表明した。2000年には金大中大統領(同)が来日して日韓トンネルの建設を提唱し、森喜朗首相(同)が関心を示した。

物流だけで年2,253億円の利益?

こうした歴史を経て、日韓トンネルは2021年の釜山市長補選で最大野党が計画推進に前向きな姿勢を示し、また話題をさらうようになったわけである。

もっとも、この計画の最大のネックは巨額の総工費だ。十分な資金を確保できるかどうかという点ももちろん、それだけの投資に見合ったリターンがあるのか疑問が残る。

この点、2018年に西南学院大学の野田順康教授が公表した調査では、英仏トンネルを参考に終始状況を試算すると、物流面だけで年間2,253億円もの営業利益が得られるとされた。さらに韓国南部と九州・中国地方が日帰りで行き来できる時間距離になるため、新たな観光需要も生まれると期待できるとされた。

その上で、建設費10兆円のうち4兆円を出資でまかない、着工から3年後と6年後にそれぞれ3兆円ずつ融資を受けたと仮定すると、供用開始から35~50年後に完済すると予想している。

既に掘り進められているが……

大日本帝国が最初に日韓トンネルを構想してから100年近くがたった。野田教授の試算のように、収支が合うのなら実現可能性はあるのかも知れない。実際、現在の日韓トンネル計画は、単なる「絵に描いた餅」ではなく、既に工事が始まっている。

佐賀県唐津市の公式サイトによると、市は2021年3月19日時点で国から日韓トンネルに関する説明を受けていない。しかし、民間団体が1986年に同市鎮西町名護屋で掘削調査を始め、500メートルほど掘ったことは把握しているという。

最近の報道では、唐津市のほか、対馬でも調査用の掘削が行われているが、資金難などを理由に、唐津市で掘られた穴も540メートルまで掘ったところで工事がストップしているという。

仮に計算上で収支が見合うとしても、現時点では資金を出すスポンサーがいない。足元では日韓関係が悪化しており、これから計画に前向きな機運を醸成するのも難しいと思える。

そもそも、日韓トンネルは日本からアジア、ヨーロッパに至る巨大な高速交通網構想の一部だった。ところが、朝鮮半島が南北に分断されて自由に往来できない現状では、本来の構想全体の実現可能性が限りなく低い。トンネル計画も定期的に話題にはなるものの、あくまで「話題」に終始しそうだ。

文・MONEY TIMES編集部

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