岸田文雄首相がロンドンで行った演説の決め台詞が不発に終わり、波紋を広げている。岸田首相は日本の成長ビジョンを説明して「岸田に投資を」と呼び掛けたのだが、国際的な通信社ロイターは、この発言を「無視」。この結果に市場関係者からは失笑も出ている。

演説の内容は?

演説は2022年5月5日、ロンドンの金融街「シティー」で開かれた。岸田首相にとっては海外の銀行家と投資家に向け、ロシア・ウクライナ問題や自らが唱える「新しい資本主義」や今後の経済政策に関する意気込みなどを、世界に向けて表明する場だった。

日本取引所グループのまとめによると、2021年の東証1部銘柄の売買実績のうち、海外投資家による売買の構成比は、金額ベースで69.6%に当たる9,034億円だった。今や日本の株式市場で大企業の株価を決めるのは海外投資家だと言える。

こうした状況から、岸田首相は日本がコロナ禍からどう回復し、経済成長を遂げるかを、世界的な金融街のシティーから発信して投資を呼び込もうとした。

実は、これに先立つ2013年、安倍晋三首相(当時)がニューヨークのウォール街で演説して「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)」と発言したことがある。今回、岸田首相が言い放った決め台詞は「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」。海外でも評価が高かったアベノミクスにあやかりたいという気持ちがあったのかも知れない。

本文でも「岸田に投資を」は取り上げられず

ところが、ロイターの記事の見出しは「“Japan is a buy”,PM Kishida tells City of London」。直訳すると「岸田首相がロンドンのシティで『日本は買いだ』と主張した」というもの。

記事では岸田首相が、富の再分配を重視する「資本主義のアップグレード版」への移行が経済成長に拍車をかけるだろうと述べ、外国直接投資額を現在の43兆5,000億円から2030年までに80兆円へ引き上げると表明したことや、企業に対して賃金の引き上げや研究開発への支出を増やすよう奨励していることを紹介した。

内容を見る限り、岸田首相の主張内容はおおよそ正確に伝えられている。ただ、せっかくの決め台詞が、見出しはおろか、記事の本文中にも採用されていない点は目論見が大きく外れたと言えるだろう。

また、記事には岸田首相の演説に批判的な記述もあった。例えば、足元で進行する円安が本来ならインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加に追い風となるはずなのに、日本は新型コロナウイルスの再拡大を恐れ、外国人観光客に対して国境を閉ざしている、といった内容で、演説の内容が必ずしも好意的に受け取られたわけではないことが分かる。

日本語混じりで「誤解」生んだ?

決め台詞が使われなかった背景として、スピーチに日本語と英語が混ざっていたため、現地メディアに誤解を生じさせてしまったのではないか、と指摘する向きもある。

岸田首相の発言は正確には「インベスト・イン・キシダ です」だったため、現地の記者からは日本語の「です」が、英語で「死」を意味する「death(デス)」に聞こえたという。つまり「岸田に投資をすると死にます」という意味と受け取られた、というのだ。

仮にそう聞こえたとしても、あまりに突飛な内容なので、記者がそのまま信じたとは考えにくい。ただ、発言の趣旨が明確でない以上、記事中には使えなかったという可能性はある。

「誤解」の背景に就任以来の発言

もっとも、岸田首相の決め台詞が伝えられなかった背景には、上記の単純な「誤解」以外に、さらに根深い理由が考えられる。

岸田首相は2021年10月の就任前後から、株式市場や企業活動の自由度を制限する方向の発言を続けた。その1つが「金融所得課税の強化」で、株式の譲渡益や配当金といった金融所得にかける税率を引き上げるというもの。このほか、最近では企業の自社株買いの規制にも言及している。

すでに日本の株式市場で主役を演じるようになっている海外投資家の目には、こうした一連の発言は「リスク」と映り、岸田政権の経済金融政策への不信感は募っている。その結果として、岸田氏が首相に就任して4カ月で東証一部(当時)の時価総額を約100兆円も下落させたことは記憶に新しい。

岸田首相はこれまで金融市場の引き締めに言及し続け、国内の新型コロナ対策も他国と比べて厳格なまま継続している。そんな彼が突然に「日本は成長する」「だから投資してよ」と呼び掛けたからといって、海外の投資家が腰を上げるだろうか。

ロイターが岸田首相渾身の「呼び掛け」ではなく、日本市場に関する首相の認識のみを見出しにとったのには、深い理由がありそうだ。そして、首相がこうした世間の見方を180度転換させるためには、1回の講演で発するキャッチフレーズではなく、日ごろの発言の積み重ねが必要だということを物語っている。

文・MONEY TIMES編集部

【関連記事】
サラリーマンができる9つの節税対策 医療費控除、住宅ローン控除、扶養控除……
退職金の相場は?会社員は平均いくらもらえるのか
>後悔必至...株価「爆上げ」銘柄3選コロナが追い風で15倍に...!?
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング|手数料やツールを徹底比較
>1万円以下で買える!米国株(アメリカ株)おすすめの高配当利回りランキングTOP10!