「代表者処罰規定」の導入も
それに加え、今回の事故に関して報じられている「知床遊覧船」の桂田社長の「安全軽視」の対応からすると、事業者に対する「両罰規定」に加えて、法人事業者の代表者に対する「三罰規定」の導入も検討すべきであるように思う。
独占禁止法95条の2は、「三罰規定」すなわち「代表者処罰」について以下のよう規定している。
「不当な取引制限」(カルテル・談合等)の違反があつた場合においては、その違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講ぜず、又はその違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた当該法人の代表者に対しても、各本条の罰金刑を科する。
というものだ。
これと同様に、業務上過失致死罪に両罰規定を導入する立法においても「三罰規定」を設け、行為者の過失によって「人の死」の結果が生じ得ることを認識していたのに、敢えて安全対策を講じなかった代表者を処罰する規定を設けるのである。
この場合、罰金額の上限は事業者と同様であり、情状如何では相当な高額な罰金刑に処せられることになる。そして、代表者が罰金を支払うことができなければ「労役場留置」となり、服役することになる。
仮に、業務上過失致死罪に両罰規定、三罰規定を導入する法律が制定されていても、今回の事故に関しては、事故原因の特定ができなければ、直接の行為者の船長の業務上過失致死罪の成立が立証できず、「知床遊覧船」への両罰規定も、桂田社長への三罰規定も適用できないことになる。
しかし、「事故原因が特定できるかどうか」は、事故が起きてみないとわからないのであり、「組織罰」「代表者処罰」が導入されていれば、事故を起こして、安全対策を十分に講じていなかった場合に高額の罰金刑を科されることがないようにするために、日頃から、事故防止に細心の注意を払い、十分な安全対策を講じておくしかない。それができない事業者は廃業するしかないということになるのである。
重大事故の刑事責任を法人事業者や代表者に対しても追及することを可能にし、事業者の安全への姿勢や対策の中身、その背景を、刑事事件で明らかにすることができるよう、組織罰・代表者罰の実現に向けて具体的に動き始めることが、安全な社会の実現を願う国民の負託を受けた国会議員の責務である。
文・郷原 信郎/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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