凄腕経営コンサルは、「安全軽視企業」にどう関わったのか
事故直前の4月2日に、経済誌「ダイヤモンドオンライン」に【なぜ、世界遺産知床の「赤字旅館」は、あっというまに黒字になったのか】と題する記事が掲載されていた。その「赤字企業」というのが、今回の観光船事故を起こした「知床遊覧船」である。
同記事は、全国700社以上を指導し、倒産企業ゼロ、5社に1社が過去最高益、自社も日本初の「日本経営品質賞」2度受賞、15年連続増収の実績を誇る小山昇氏の連載記事の一つだ。その中で、同氏が「有限会社しれとこ村」を経営指導し、「赤字の会社があっというまに黒字に変わった」ことに関するエピソードが書かれている。
知床観光船が売り出されたとき、私は、「値切ってはダメ! 言い値で買いなさい」と指導した。
とも書かれている。これは「有限会社しれとこ村」が、今回事故を起こした「KAZUⅠ」等の観光船を買って、有限会社「知床遊覧船」を設立したということだろう。
観光船を「言い値」で買って、しかも、その会社を「あっと言う間に黒字」にしたというのである。その間には、余程、徹底した経費の削減が行われたのであろう。そこで、本来、安全にとって最低限必要なコストも削減されたのだとすると、まさに、「赤字企業を黒字化する経営指導」が、今回の事故の背景になったということになる。
今回の事故に関して、次々と明らかになっている桂田社長の、「安全軽視」の経営については、「こんなことを一人で判断しただろうか」と不思議だった。その背後に、「凄腕経営コンサル」という存在があった可能性を、小山氏自身が示唆しているのである。
既に述べたように、国交省の行政処分は、「企業経営への配慮」から「馴れ合い」的なものになりがちで、安全対策を徹底させることができない。その一方で「凄腕経営コンサル」が、安全のためのコストをも削減する徹底した合理化で「経営の黒字化」を図る指導を行う。この二つが「両輪」となって「安全コスト削減」によって赤字企業を延命させることで、人命にかかわる事故の危険が増大することになる。
恐ろしいのは、小山氏のような「凄腕経営コンサル」が指導し、徹底した合理化が行われ「黒字化」された企業が、全国に数えきれないほどあるということだ。
そういう企業は、いつ何時、有限会社「知床遊覧船」のような重大事故を起こしても不思議ではない。
不可解なのは、小山氏の元記事が、今回の観光船事故発生後、ダイヤモンドオンラインからは削除されたことだ(転載記事やツイッターでの引用は残っていたため、記事削除への批判が殺到し、ダイヤモンドオンラインは記事を再公開した)。自身が書いた記事の中身に、「隠したいこと」でもあるのだろうか。
重大事故遺族が求める「組織罰の創設」を
加害事業者の杜撰な安全対策で多くの人命が奪われる重大事故が発生する度に、加害者側に刑事責任等の法的責任を問うことができず、尊い肉親の命を奪われたことへの責任の所在すら明らかとならないことに、遺族は、やり場のない怒りを抱え、悲嘆に暮れるということが繰り返されてきた。
福知山線脱線事故等の重大事故の遺族の方々は、肉親の死を無駄にしたくない、事故防止に活かしたいという思いから、「組織罰を実現する会」を結成し、「重大事故の業務上過失致死罪に両罰規定を導入する特別法の制定」をめざしている(【組織罰はなぜ必要か:事故のない安心・安全な社会を創るために】)。私は、「両罰規定による組織罰」の発案者であり、会の活動にも顧問として加わっている。
国交省の運輸行政には、企業経営への配慮が働き、乗客の安全確保を徹底するものにはなっていない。一方で、「凄腕コンサル」の経営指導などで「安全を軽視してまで合理化が図られ、重大事故の危険が拡散される。このような状況で、事故を防止し、乗客の安全を確保するためには、個々の事業者に、事故で乗客の生命に危険を生じさせることの重大性の認識、危機感を高め、安全対策を徹底しなければ、事故を起こした場合に厳罰に処せられると認識させられるような法制度にするしかない。
そして、一度、人命にかかわる事故が発生した場合には、加害企業がどのような安全対策を行い、そこにどのような問題があったのか、仮に安全軽視の姿勢だったとすると、それはどのような背景によるものか、それらの事実の解明は、刑事事件の捜査によって行うしかない。
そこで、今回の観光船事故を機に真剣に検討すべきなのが、重大事故を起こした事業者やその経営者に対して刑事処罰が行えるようにするため法律の制定である。
既に述べたように、現行の法制度では、重大事故で多数の犠牲者が出た場合でも、法人事業者の組織的な過失を、犯罪として問うことができないし、直接の当事者の運転手・船長等が死亡していることが多く、そのことも、事業者側の刑事責任追及の支障となる。
会社側が安全対策を軽視し、安全管理が杜撰であり、それが重大事故の発生につながったとしても、今回の「知床遊覧船」のように事業者の代表者の対応がいかに安全を軽視し、事故後の対応に誠意がなくても、事業者も代表者も処罰することができない結果に終わる可能性が高いのである。そのような現在の法制度を、重大事故を発生させた事業者や代表者の処罰が可能になるよう、抜本的に是正すべきである。