戦争当事者ロシアもウクライナも宣伝合戦中
歴史のおさらいはここまでにして目を現代に戻せば、ロシアもウクライナも戦争の最中であり、特にウクライナは国家と国民の存亡を賭けた戦いである。世界各国の議会で救援を訴え、日々の過酷な戦闘状況を海外に発信して国際世論を味方につける活動もまた、生存のための努力である。
宣伝戦という観点からは、現代のゼレンスキー大統領とかつての蔣介石には、多くの点で共通点を見出すことができるだろう。
その必死の叫びの文言に拘って、「『真珠湾攻撃』の認識や言及の仕方が気に入らない」、「天皇陛下をヒトラー等と並べて扱うとは歴史認識がおかしいから抗議せよ」という日本の反応は、“内弁慶”かつ“ナイーブ”に過ぎるだろう。注目点や学ぶべき事柄は、そこではない。
また、「ウクライナ側にもフェイク情報もあるだろから鵜呑みにしないことが肝要だ」と発信すれば、日本国内では「親露派」「どっちもどっち論」のレッテルを貼って熱い“村八分”を受けてしまう。そのため、このような見解は、少しタイムラグを付けないと表明できない。ここまで情緒的かつ非論理的、または皮相的な主張があふれ、社会的私刑が横行すると、深く洞察できる少数の人は沈黙せざるをえないだろう。
日本を取り巻く巨大な潜在リスクを認識しよう
そもそも日本は、巨大な潜在リスク、つまり現状変更国かつ核保有国に囲まれている。ロシアウクライナ戦争で明らかになったこのリスク包囲状況を、日本は強く認識すべき時である。
とりわけ、日米にとって“主敵”となる中国の軍事力は、アジア・西太平洋地域においてアメリカに並ぶ水準にまで急成長しており、今後アメリカを凌駕するという予測もある。例えば国内で「敵地攻撃」か「反撃力」か、など言葉の攻防をしている場合ではない。
中華民国は80年前すでに、武力では圧倒的に強大だった日本に対して知の戦いとも言える宣伝戦で米国を巻き込み、ついには日本を破綻に追い込んだ。今や武力・経済力において日本を圧倒する中国である。仮にこれを相手に何かを争う際に、宣伝戦に対してあまりにも“ピュア”なリアクションを起こす現代日本は、本当に自分たちを守れるのだろうか。
いや自衛隊の精強無比に疑いはない。問題は、国民と政治家とマスメディアが担う世論戦の極端な弱さにある。武力で圧倒していた大日本帝国でさえ、中華民国に勝利できなかった理由は一体何だったのか。一般国民のうち何人くらい正確に認識しているのだろうか。
歴史の勉強とはそういうことではないか。
文・田村 和広/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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