最近アメリカで、景気後退のシグナルが点灯したことをご存じだろうか。そのシグナルとは「逆イールド」と呼ばれるものだ。国債の金利に関するシグナルで、過去に逆イールドが起きた場合はその後、高い確率で景気後退が起きている。株式相場の大幅な下落は近いのだろうか?

そもそも「逆イールド」とは?

株式投資をしていない人の場合、「逆イールド」という言葉を一度も聞いたことがないケースがほとんどかもしれない。しかし逆イールドは景気の先行きを見通す上で、注視したいシグナルと言える。

では逆イールドとはどのような現象を指すのか。シンプルに説明すると以下の通りとなる。

逆イールド:長期金利が短期金利を下回ること

イールド(yield)という英語は日本語では「金利」という意味で、逆イールドとは長期金利が短期金利を下回ることを指す。国債の金利は通常、短期金利よりも長期金利の方が高いため、その状況が逆転することを逆イールドと呼ぶわけだ。

一般的には、米国債の10年物利回りと2年物利回りの差をもって逆イールドと判断されることが多い。

1〜2年後に景気後退を示唆?

過去の経験則から、逆イールドが起きるとその1〜2年後に景気後退が起きることが多い。例えば1989年に逆イールドが起きたあと、アメリカ経済は1990〜1991年にかけて景気後退に見舞われた。2000年の逆イールドも、2006〜2007年の逆イールドも、景気後退の前に起きた。

このことから、景気後退のシグナルとしての逆イールドの信頼性は高いと言えるが、なぜ逆イールドが景気後退と結びつくのだろうか。そのことを理解するのには、まず次の点について知っておく必要がある。「通常時に長期金利が短期金利を上回っている理由」だ。

ただし、債券金利についてはある程度専門的な知識がないと包括的な理解は難しいため、やや強引な説明となる点、ご留意いただきたい。

通常時に長期金利が短期金利を上回っている理由

一般的に国債の長期金利は、期待インフレ率と将来の政策金利の見通しによって決まってくる。前述の通り、やや強引な説明になってしまい恐縮だが、期待インフレ率と将来予想される政策金利を合わせたものが、長期国債の金利に近くなる。

アメリカでは2%をやや上回る水準のインフレ率が目標とされるため、仮に政策金利が変わらない場合でも、インフレが毎年進行すると予想された場合、長期金利は高くなる。そのため、一般的に長期国債の金利は短期国債の金利よりも高くなるわけだ。

逆イールドが景気後退と結びつく理由

先ほどの説明の通り、通常時は長期国債の金利が短期国債の金利より高くなるわけだが、この状況が逆転するということは、将来の政策金利が低くなると考えている市場参加者が多いということになる。ではどういった状況の際に政策金利は低くなるのか。

その理由をすると、逆イールドと景気後退の結びつきが見えてくる。アメリカにおける政策金利は「フェデラル・ファンド(FF)金利」で、FF金利を決めるのは米国連邦準備制度理事会(FRB)だ。そしてFRBがFF金利を下げる局面の1つが、景気後退が懸念されるときだ。

政策金利を下げると基本的には市中銀行からお金を借りる際の金利も下がるため、景気後退が起きても企業が資金を調達しやすくなる。企業がお金を借りやすくなれば景気後退を乗り切りやすくなるため、FRBはFF金利の利下げを行うわけだ。

直近では新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退の懸念が生じた際、FRBはFF金利のレートを1.00〜1.25%から0.00〜0.25%に1.00%分引き下げた。FRBは2022年3月にFF金利の0.25%分の引き上げを決めたが、それまでは0.00〜0.25%の水準が維持されていた。

要するに、多くの市場関係者が将来的にFF金利の低下を予想しているということは、将来FRBが景気後退の対策として利下げを行うことを予想している、と捉えることができる。こうしたことから、逆イールドは景気後退のシグナルとして機能しやすいわけだ。

米国株に投資している人は注意を

2022年に入って米国債で逆イールドが起きたのは3月29日だ。2.39%付近で2年物の利回りが10年物の国債利回りを上回った。そしてアメリカのメディアや日本のメディアから、「景気後退のカウントダウンが始まった」といった趣旨のニュースが相次いだ。

もちろん、過去の経験則が今後も必ず当てはまるとは限らないが、米国株に投資している多くの投資家の頭に「景気後退が起きる可能性は高い」とインプットされたことだけは確かだ。

通常、株価は景気後退が起きる前に下落するため、投資家の心理が悪化すれば売りが先行し、景気後退が起きるかどうかに関わらず、相場の下落が起きる可能性がある。

債券利回りについての理解は簡単ではないが、逆イールドの現象が起きたという事実だけは知っておき、米国株に投資している場合は今後注意して投資に臨みたいところだ。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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