海の生き物が、プラスチックごみを食べてしまった。魚網に絡まり傷ついてしまった。そういった写真や動画をSNSでも見かけるようになり、人間が捨てたごみが海洋環境問題に影響を与えていることが深刻な問題として浮き彫りになってきている。その被害はクジラやイルカといった海獣(海に住むクジラやイルカなどの哺乳類)にまで被害をもたらす。

今回、オーシャナ編集部がお話を伺ったのは、死んだ状態でストランディング(海岸に漂着する現象)してしまった海獣を解剖し、研究調査を行なっている海獣学者の田島木綿子氏。2000頭もの海獣と向き合ってきた20年間の中で感じたことと、私たちに伝えたいこととは。

学生時代に感じた疑問がすべてのはじまり

学生時代、動物の病気にまつわる学問を専攻していた田島氏。授業を受ける中で、「海にいるはずの海獣は、なぜ海岸に打ち上がってしまうのだろう?」と疑問に感じ、病気という観点からその理由を解き明かしたいと思った。現在は、東京都・台東区の上野公園に本館を構える国立科学博物館の動物研究部脊椎動物研究グループに所属し、ストランディングしてしまった海獣を解剖し、研究調査を行なっている。

意外と多い?日本で発見されるストランディングの数

「日本では、ストランディングの発見報告が年間約300件あります。あくまでも報告件数なので、1頭のストランディングに対して複数件の発見報告がされるときもあれば、50頭のストランディングに対して1件の発見報告のときもあります。もちろん、人に発見されないストランディングもあるので、少なくとも1日1頭は、日本のどこかでストランディングしているのではないでしょうか」。

過去にはなんと、150頭が同時期にストランディングしたこともあったそうだ。ダイビングをしていても海獣とは滅多に出会えないので、1日1頭という数字は、多く感じる。

「海獣たちの死因は、ガンやウイルスなど自然発生的な病気や環境汚染物質が原因の病気、定置網や船との衝突、スクリューに巻き込まれる事故などさまざまです。正直、解剖してもわからないときもあり、人間の科学の限界を感じると同時に、だからこそ調査を続けるしかないとも思います」。

海にいるはずの海獣がストランディングしてしまう理由については、海流のせいなのか、沿岸近くで死んでしまったせいなのか、長年研究している田島氏でさえも、まだ解明できていないそうだ。

【衝撃】クジラの胃から見つかる大量のプラごみ。海獣学者が危惧する生態系破壊
(画像=静岡県・熱海市で発見されたザトウクジラ、『オーシャナ』より引用)