目次
不動産取引の買付証明書の法的性格
不動産取引の買付証明書のメリット
・買付証明書に書いた購入金額から値引き交渉もできる
・法的拘束力はないため、買主の意思でキャンセルできる
不動産取引の買付証明書の法的性格
不動産の買付証明書は、売買契約の元となる書類ではありますが、売買契約書そのものではありません。買付証明書が提出されただけでは売買契約は成立していません。
法律上は売買の対象物件が特定され、売買代金の合意があれば、口約束でも売買契約が成立するのが原則ではあります。
しかし、不動産という高額なものの売買ついては、口約束だけではなく契約書を作成し、さらに手付金や内金の受け渡しなども経て慎重に行うのが不動産取引の実務として定着しています。
判例上も、このような不動産取引の慣行を重視して、売買契約書の作成と内金の授受をもって売買契約が成立すると考えるのが相当であるとしています(東京高判昭和50.6.30 参考:買付証明書の法的性格|公益社団法人 全日本不動産協会)。
買付証明書は買い受け希望者が購入の意思があることを表明するものに過ぎません。「この物件を購入したいので話し合いをさせてください」という正確の書類なので、法的な拘束力はありません。
では法的に無意味な書類なのかというと、そういうわけではありません。
買付証明書が提出されて話し合いがある程度進むと、売主および仲介業者も買主も、売買契約の成立に向けて物件の引渡の準備や代金を支払うための融資の申込などの準備を行います。
そうした段階になって一方的に契約締結を拒むと、相手方に損害を与えた場合には損害賠償責任を追及される恐れがあります。
つまり、買付証明書は、ただちに法的な拘束力を有するものではないが、表明した購入の意思に沿って話し合いを進めるに従って、一方的に相手の信頼を裏切ると法的な責任が発生するという重要な書類となります。
不動産取引の買付証明書のメリット
買付証明書を提出すると、単に物件を物色しているだけの状態から、売買契約の締結に向かって一歩前進することになります。
その際、次のようなメリットがあります。
買付証明書に書いた購入金額から値引き交渉もできる
買付証明書を提出することは、売主や仲介業者に対して、「この物件を購入したい」という意思を明確に表明することです。
売主には、物件の広告を見ただけで問い合わせてきた段階の人がどの程度購入の意思を持っているのかは分かりません。
購入するかどうか分からない人から値引きできるかどうかを聞かれても、通常は応じにくいものです。
しかし、買付証明書が提出されていれば、購入する意思が明確になっています。
しかも、氏名・住所や年収、融資を申し込む金融機関名や融資の申込額の予定などが具体的に書いてあれば、それだけ真剣に購入を検討していることを示すことができます。
売主としても、物件を売りに出した以上は売れないと困ります。本気で購入を検討している人に対しては、値下げできるかどうかを真剣に検討しつつ価格交渉に応じてくる可能性が高まるのです。
買付証明書を提出して本気の購入意思を表明することで、双方が真剣になって本格的な価格交渉を行うことができれば、場合によっては買付証明書に書いた金額からの値引き交渉ができることもあります。
法的拘束力はないため、買主の意思でキャンセルできる
前述したとおり、買付証明書には法的拘束力はありません。そのため、提出後でも諸条件が整わなければ買主の意思で売買契約の交渉をキャンセルすることができます。
キャンセルしたことによるペナルティも基本的にはありません。
ただし、交渉が「話し合い」の段階を過ぎて売主または買主のどちらかが契約を実行する準備に取りかかる段階に入ったら、一定の法的責任が発生することがあります。
過去の判例では、分譲マンション用地の売買契約の交渉をしていた事案で、キャンセルをした買い受け希望者に、売主に対する損害賠償金の支払いが命じられたものがあります(福岡高判平成7.6.29 参考:買付証明書の法的性格|公益社団法人 全日本不動産協会)。
この事案では、売買契約の締結にまでは至っていなかったものの、売買契約を作成すること、代金決済を行うことを合意し、地鎮祭の日程まで確認する段階にまで交渉が進んでいました。
この段階にまで至って買い受け希望者が一方的にキャンセルしたため、相手の信頼や財産を害したものとして損害賠償責任が課されたのです。