2000年代に入ってからボディビル業界の掲示板などで話題となったトレーニング法「DCトレーニング」。ここではそのやり方と効果、誕生に至るまでの軌跡を紹介する。
DCトレーニングの誕生
DCトレーニングは、開発者のハンドルネームがドッグクラップ(犬の糞)だったことから、当初は「ドッグクラップトレーニング」と呼ばれていたが、その後、間もなくしてシンプルに「DC」と呼び名が変わった。
DCトレーニングを作ったのはダンテ・トゥルーデルという人物だ。多くのトレーニーがそうであったように、ダンテもトレーニングを始めたばかりの頃は量の多いワークアウトを行いながら、肉体改造に夢中になっていた。
例えばアーノルド・シュワルツェネッガーのワークアウトは週6回で、しかも各部位には20~30セットも行い、各部位は週に2、3回の頻度で回ってくるようにスケジュールが組まれていた。
また、このような量のトレーニングは、1980年代~1990年代初期にかけてウィダーのボディビル、トレーニング誌で盛んに取り上げられ、注目されていた。そのため、憧れのスター選手は誰もがみなこのようなワークアウトを行っているのだとファンは確信していた。
当然、若かりし頃のダンテも例外ではなく、トップボディビルダーたちに敬われていたウィダーの雑誌内容に疑いを持つはずはなかった。
ダンテ・トゥルーデルは子供の頃から様々なスポーツに興味を持っていたのだが、やがてボディビルの存在を知り、この世界にやってきたのである。
当時の彼は180cmを超えるの長身であったにもかかわらず、体重は59kgしかなかった。ボディビルとは無縁の体型をした若者だったのである。それでも、当時に流行っていた量の多いトレーニングを必死になって行った。しかし、期待したような結果は何も残せなかった。しばらくして彼は思った。何かがおかしい、何かが違うと。
もしかしたら、当時のボディビル界には、ジョー・ウィダーの推奨するやり方に疑問を持ってはならないという風潮があったのかもしれない。
しかし、ダンテは違った。どうして各部位に20セットもやる必要があるのか。10セットではダメなのか。もし10セットでも十分に効果が出るなら、さらにセット数を減らせるのではないか。20セットが最適という根拠はどこにあるのか。それほどの量をこなして筋量アップに成功した人たちは一体どれくらいいるのか……。
彼は科学的な根拠を見つけようと、ウィダーの雑誌を片っ端から読みあさり、量のトレーニングが推奨されてきた理由を丹念に探した。しかし、結局、彼が求めていたものは何も見つからなかった。
わかったことは、量のトレーニングが推奨されてきたのは、いわゆる筋発達の素質に恵まれたエリートボディビルダーたちの経験論が下地になっているということ。そして、記事の多くがチャンピオンたちのトレーニング法として紹介されたものであり、素質に恵まれたボディビルダーは何をしても、あるいはしなくても、驚異的なレベルまで筋発達させることができるということだけだった。
平均的な素質しか持ち合わせていない私たちは、一体どうすれば筋発達を起こすことができるのか。ついにダンテは盲信してきた量のトレーニングから離れ、挑戦と失敗を繰り返しながらDCトレーニングを確立するに至ったのである。
DCトレーニングは、最初は彼の発行するニュースレターで紹介された。それがやがてオンライン上で話題になり、一気に広まっていったのだ。
彼の文章には説得力があっただけでなく、ダンテ自身も以前の針金のような身体ではなかった。59kgだった彼の体重はDCトレーニングによって136kgまで増加していたのだ。そのこともまた、多くの「平均的な素質のトレーニー」たちを引きつけたのである。彼らもまた量のトレーニングに疑問を持ちながらも、問題を解決できないままトレーニングを続けていたのだ。
DCとHITの違い
DCトレーニングの最大の特徴は、やはりワークアウト量が少ないという点だろう。
量が少ないトレーニング法と言えば、マイク・メンツァーのHIT(ハイインテンシティトレーニング)が真っ先に連想されるが、DCはHITとは異なるものだ。そもそも、ダンテはメンツァーと比較されることを嫌い、それに関しては次のように述べている。
「メンツァーは暴走したからね」と。つまり、メンツァーはあまりにも高強度にとらわれすぎて、彼のクライアントの中には14日に1回の頻度でしか特定の部位が回ってこないようなスケジュールの人もいたのだ。高すぎる強度はオーバートレーニングをもたらす。メンツァーのやり方は振り幅があまりにも大きかったというのがダンテの見解なのだ。
筋発達を起こすには、適度な量と適度な頻度のワークアウトが不可欠だ。1カ月にわずか数回の超高強度ワークアウトで筋肥大を起こすのは不可能に近い。そもそも、HITほど強度が高いワークアウトでは、ワークアウトのたびに少しずつ強度を高めていくという基本的なやり方を続けていくことは難しいのだ。
一方、DCトレーニングではその点を重視している。つまり、ワークアウトのたびに少しでも重い重量を扱う、あるいは1レップでも多く行うようにする。そのことはトレーニング日誌を見れば明らかで、ワークアウトの内容が右肩上がりにレベルアップしていく必要があるとダンテは考えているのだ。
DCトレーニングではワークアウト量は少ないが、ワークアウトの頻度は多い。例えば、本来なら1回のワークアウトに盛り込める量をあえて2回に分けて行うのだ。こうすれば1回のワークアウト量を減らして、ワークアウト頻度を増やせる。
例えば、各部位を週に1回ずつワークアウトする人の場合、一年にすると各部位を52回ワークアウトすることになる。一方、ダンテの指導を受けるクライアントたちは、年間の頻度が75~92回にもなる。それほどワークアウト頻度は多いのだ。
ワークアウト頻度が多くてもワークアウト量は少ないので、セット当たりのレップ数や使用重量は増やしやすい。そのため、ワークアウトのたびに確実にレベルアップした内容で対象筋を刺激することができ、その結果が筋肥大につながりやすくなるのだ。