エネルギー資源を除外した経済制裁でも被害はEUに重かった

結局、自国同様、ロシアもアメリカ軍が恐いから、自国の国境沿いで起きている非人道的な行為にも、おとなしく引き下がるだろうと思っていたのでしょう。

ですが、実際にロシア軍がウクライナに侵攻してからのEU諸国の対応は、お粗末そのものでした。

とくにロシアからの天然ガス依存度の高いドイツは、すでに完成して稼働を待つばかりだったノルドストリーム2という新しいパイプラインを廃棄すると言い出しました。

それでいて、古いパイプラインからの天然ガスは買いつづけているのですから、「経済制裁」は口先だけとばればれです。

というわけで、かんじんのエネルギー資源については制裁から除外しているのですが、従来どおりの量では入ってこないというだけでEU諸国の原油や天然ガス価格は暴騰しました。

ドイツをはじめとする西欧諸国は、急遽アメリカなどから液化天然ガス(LNG)を輸入する手はずを整え始めました。

しかし、ロシアから安価なパイプライン輸送の天然ガスが入ってくることに慣れ切っている西欧諸国は、天然ガスはほぼ全量約3割価格の高いLNGでまかなってきた日本、韓国、台湾とのコスト競争にはついていけないでしょう。

そして、原油を精製して造るガソリン価格は、それ以上の勢いで上がっています。

原油バレル当り180~200ドル説の根拠は?
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

上段をご覧ください。EU諸国のガソリン価格がブレント原油価格に比べてバレル当り何ドル割増しになっているかを図示したものです。

ロシア産のウラル原油はブレントより品質が低いので、ウラル産を混ぜることによってバレル当りの割増額を10~20ドルに抑えていたのですが、ロシア産の輸入量が減少しただけで、ガソリンに精製した場合の割増額が2倍以上に急騰しました。

その結果、下段に出ていますように今年3月のガソリン価格は、実質ベースで過去最高だった2008年6月に比べた順位でたった3%分下にいるだけの状態となっています。

このまま戦局が膠着状態になれば、当然実質ベースで史上最高になるでしょうし、ガソリンだけではなく、原油価格も品薄で値上がりはまぬかれないでしょう。

アメリカもまた石油製品の在庫が払底気味

ロシアにエネルギー資源を全面的に依存していたEU諸国はともかく、自国が世界有数のエネルギー資源大国であるアメリカは、それほど影響を受けなかったとお考えかもしれません。

ですが、アメリカでも原油から精製するガソリンやディーゼル油の在庫が極端に減少しています。

原油バレル当り180~200ドル説の根拠は?
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

アメリカの場合、2020~21年はロックダウンなどで人の移動が少なかったのですが、その2年間と比べても、今年1~3月の在庫は非常に低くなっていて、もし順調に人の移動が平常通りに戻っていけばほぼ確実にガソリンやディーゼル油が深刻な品不足となるでしょう。

異常値だった2020~21年をのぞいた2015~19年との比較で2021~22年の実績を見ると、次のとおりです。

原油バレル当り180~200ドル説の根拠は?
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

ここでもまた、かなり新型コロナの影響が大きかった2021年より、今年の1~3月のほうがはるかに在庫が減少しています。

年間を通じてみれば、2021年はコロナ前の5年間の平均値とほぼ同水準の在庫を持っていたわけですが、2022年になって在庫が激減しています。

もちろん、アメリカは化石燃料全体をほぼ自給できる国ですから、どこかからの輸入が途絶えたとか、減少したというわけではありません。

それなのに、次のグラフでおわかりいただけるように、原油の在庫が精製品の在庫より大きく減少しているのです。

原油バレル当り180~200ドル説の根拠は?
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

アメリカ国内では、ガソリン価格の暴騰が話題になっていますが、精製品全体の在庫はコロナ前の5年間の平均に対して6%強減少しただけです。一方、原油価格はまだ本格的に上がっていませんが、在庫はもう11%以上少なくなっています。当然、これから原油価格もガソリンを追って急上昇するでしょうが、アメリカの場合なぜ在庫がここまで減少したのでしょうか?