「マミートラック」という言葉をご存じだろうか。企業で働く女性が抱える問題、さらに社会問題として、なかなか解消されていない課題のことだ。この記事では、マミートラックの意味などについて包括的に解説する。
「マミートラック」とはどういう意味?
「マミートラック」とは、産休や育休から企業に復帰した女性が出世コースから外れ、責任が軽い仕事しか与えられない状況を指す。
公益財団法人「日本女性学習財団」によれば、マミートラックという言葉はアメリカでジャーナリストによって名付けられた。マミー(mommy)は「母」、トラック(track)は「競争路/トラック競技」という意味で、「多くの母親が企業で走ることになる競争路」という意味合いがある。
ちなみに出世コースは「ファストトラック」と呼ばれ、マミートラックとよく対比される。
総合職で「マミートラック」を感じている女性は約4割
公益財団法人「21世紀職業財団」は2022年2月、「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」の結果を公表した。
調査では、子どものいる女性に対して「現在の仕事や今後のキャリアについて、あなたの状況に近い項目を選んでください」という質問をし、以下の3つの選択肢から回答を選んでもらい、回答の比率を公表している。
A:難易度や責任の度合いが妊娠・出産前とあまり変わらずキャリアの展望もある
B:難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない(=マミートラック)
C:難易度や責任の度合いが高すぎて荷が重い
「B」を選んだ女性が、マミートラックを感じている女性ということになる。
項目 | A | B | C |
---|---|---|---|
総合職 | 53.0% | 39.0% | 8.0% |
限定総合職 | 53.9% | 32.2% | 14.0% |
一般職 | 37.9% | 50.6% | 11.5% |
コースなし | 35.7% | 49.6% | 14.7% |
総合職においては、マミートラックを感じている女性は約4割に上ることがわかった。ちなみに同財団はマミートラックの現状として「一旦、マミートラックに入るとなかなかそこから脱出するのは容易でない」と分析している。
女性活躍推進法の全面施行など取り組みは進むが……
日本政府もマミートラックを問題視し、解決に向けた取り組みが進みつつある。例えば、2016年4月には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が全面施行された。
現在はこの法律に基づき、国や地方公共団体、従業員数が301人以上の企業については、以下の3点が義務付けられている。そのため大企業は自社の考え方に関わらず、産休・育休明けの女性に対する処遇の改善が喫緊の課題となっている。
・自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
・その課題解決にふさわしい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
・自社の女性の活躍に関する情報の公表
取り組みの状況が評価された企業は、厚生労働相から「えるぼし認定」もしくは「プラチナえるぼし認定」を受け、認定マークを商品などに付与することができる。認定マークは以下のとおり。
ジェンダー・ギャップ指数で日本は先進国で最低レベル
政府はこのような取り組みを行っているが、それでもマミートラックを感じる女性はあまり減っていないようだ。男女の「ジェンダー・ギャップ」に関する国際調査の結果からも、それがうかがえる。
世界経済フォーラム(WEF)が2021年3月に公表した「The Global Gender Gap Report 2021」によれば、男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数のランキングで、日本は先進国の中で最低レベルであり、156ヵ国中120位だ。
順位 | 国名 | 指数 |
---|---|---|
1位 | アイスランド | 0.892 |
2位 | フィンランド | 0.861 |
3位 | ノルウェー | 0.849 |
4位 | ニュージーランド | 0.840 |
5位 | スウェーデン | 0.823 |
120位 | 日本 | 0.656 |
この指数は「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野のデータから総合的に算出されたもので、日本は特に「経済」と「政治」のスコアが低い。経済は156ヵ国中117位、政治は156ヵ国中147位だ。
国や企業のより積極的な取り組みが不可欠
マミートラックに悩む女性を減らすためには、国や企業がさらに積極的な取り組みを行うしかない。
今後も、子どもを持つ女性に対するアンケートやジェンダー・ギャップ指数のランキングの推移から、日本の状況がどのように改善しているのか、または変わっていないのか、むしろ後退しているのか、引き続き注視していきたい。
文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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