(1)はじめに

2020年12月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した「リュウグウ」のサンプルが入っているとみられるカプセルが地球に帰還する予定です。宇宙探査は、長い年月と莫大な予算をかけて行う一大プロジェクト。これまで実施されたプロジェクトはどのような成果を残してきたのでしょうか。世界の主要な宇宙探査プログラムを国と天体・惑星の2軸から考察します。

(2)世界の深宇宙探査まとめ(国別) 

■日本

日本の代表的な宇宙探査機について、各プロジェクトの予算を合計すると約1,500億円で、月、水星、金星、火星、小惑星2つの探査を行っています。また、技術実証機として新しい宇宙航行の方法も試していますね。
※予算は調査できた探査機の総事業費合計です。

では、各プロジェクトについて、時系列に並べて簡単に紹介します。

1985年:日本初の宇宙探査機「さきがけ」を打ち上げ、「すいせい」にてハレー彗星を観測

日本初の宇宙探査機(地球重力圏から脱出した人工物)は「さきがけ」です。「さきがけ」は76年ぶりに回帰してきたハレー彗星を探査する「すいせい」の試験探査機として打ち上げられ、見事にその役目を果たし、「すいせい」によるハレー彗星の撮影成功に貢献しました。

1990年:はやぶさ(MUSES-C)の兄? ひてん(MUSES-A)の打ち上げ

1990年には「ひてん(MUSES-A)」を打ち上げ、将来の月・惑星探査ミッションに必要な技術の習得と確立のための工学実験が行われました。MUSESと言えば、「はやぶさ」もMUSES-Cという別名を持っていることをご存知ですか? MUSESとはシリーズ名「Mu Space Engineering Spacecraft」の略で、「ミュー・ロケットで打ち上げる工学実験宇宙機」という意味があります。

では、「ひてん」が何を実験したかと言えば、今となってはなじみ深い技術だろう(月の)スイング・バイ技術、それにともなう軌道の精密標定・制御の高精度化などで、日本で初めて月に向かった探査機になります。

2003年:はやぶさ(MUSES-C)の打ち上げ

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= はやぶさとイトカワのイメージ
Credit : イラスト 池下章裕、『宙畑』より引用)

そして2003年に打ち上げられたのが、日本人の多くが知っているだろう「はやぶさ(MUSES-C)」です。最も注目を浴びたのは2010年の帰還時かと思いますので、そんな前に打ち上げたのかと思われる方も多いかもしれません。さらに、小惑星サンプルリターンの構想自体は1985年ごろから練られ始めたようで宇宙探査の実現に至るまで時間にも驚きますが、打ち上げまで約20年の間、ひとつの目的に向かって同じ意思をもって挑み続けられた当時の開発者の方々にも驚くばかりです。

そのような人々の思いもあってか、トラブルが相次いだ「はやぶさ」ですが、ボロボロの状態となっても不死鳥のように復活を遂げ、小惑星のサンプルを地球に送り届けることができました。自らはまばゆい光を放ちながら大気圏で燃え尽きる印象的な姿を残し、日本人の宇宙探査熱を一気に盛り立てることとなりました。

2007年:日本初の大型月面探査「かぐや」の打ち上げ

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= 月周回衛星「かぐや(SELENE)」Credit : イラスト 池下章裕、『宙畑』より引用)

はやぶさが打ち上げられ、帰還するまでに打ち上げられたのが月周回衛星「かぐや」です。「かぐや」は月の起源の解明と将来の月利用のためのデータ収集を主な目的として、子衛星「おきな」「おうな」とともに打ち上げられました。「かぐや」の周回にともなって月に隠れていた地球が見えてくる「地球の出」を見たことがある方も多いでしょう。

「かぐや」によって、これまでよりも詳細な月の地形図が作成されたり、月の南極にはほとんど露出した氷がないということが明らかになりました。

2010年:金星探査機「あかつき」とイカロスの打ち上げ。あかつきの華麗なる復活

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= 金星探査機「あかつき」Credit : JAXA、『宙畑』より引用)
はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= 小型ソーラー電力セイル実証機 「IKAROS」Credit : JAXA、『宙畑』より引用)

2010年5月、はやぶさが帰還する1か月前に打ち上げられたのが金星探査機「あかつき」と型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」です。この2機はH-IIAロケットによって同時に打ち上げられました。

「あかつき」は軌道制御をするためのメインエンジンが壊れ、当初予定の12月に金星軌道に入れず失敗かと思われたものの、もう一つの姿勢制御エンジンを活用して5年後の2015年、見事金星軌道への投入に成功し、金星の大きな謎だった「スーパーローテーション(金星大気の高速回転)」の解明に貢献し、2020年の4月に「あかつき」観測成果論文がScience誌に掲載されました。

2014年:はやぶさ2の打ち上げ

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= はやぶさ2とイトカワのイメージCredit : イラスト 池下章裕、『宙畑』より引用)

そして今最も日本の宇宙探査熱を湧かせているだろう話題がこちらの「はやぶさ2」でしょう。

炭素を豊富に含んでいて、地球の海の水や生命の起源を探る鍵になると考えられているC型小惑星・リュウグウを探査しました。2度のタッチダウンを行い、サンプルを採取したほか、小型のローバを投下してリュウグウ表面の調査も行っています。サンプルが入っているとみられるカプセルは、いよいよ2020年12月5日14時30分に分離、翌6日の朝にオーストラリアのウーメラ砂漠に着陸する予定です。

2018年:水星磁気圏探査機「みお(MMO)」の打ち上げ

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= 水星探査計画「BepiColombo」Credit : JAXA、『宙畑』より引用)

国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」は、JAXAが開発した水星磁気圏探査機「みお(MMO)」とESAが開発した水星表面探査機MPOの2つの周回探査機からなります。MMOの主なミッションは、水星固有の磁場や磁気圏、大気の観測です。2018年に打ち上げられ、現在も運用が進められています。

2024年:はやぶさ2の次は火星の衛星へ「MMX」

はやぶさ2予算はアポロ計画の1/300!? 各国の宇宙探査まとめ
(画像= 火星衛星探査計画(MMX)Credit : JAXA、『宙畑』より引用)

火星衛星探査計画 (MMX: Martian Moons eXploration)は、火星の衛星のフォボスとダイモスを観測し、どちらか片方のサンプルリターンを行うというものです。2020年代前半の打ち上げを目指して、開発が進められています。