文字どおり人を踏みつけにして平然としている人間の多い社会

さらに、次の表にもアメリカ社会の陰惨さが表れています。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に(後編)
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

アメリカは武器を持つ権利が許容されているどころか、むしろ「人民武装権」こそ大衆が圧政から身をを守るために必要不可欠な基本的権利だとして、賞賛されている国です。

ですから、こういう乱闘がたまたま深刻化したときに相手が銃を持っていたために亡くなってしまったという犠牲が出るのもやむを得ないことかもしれません。 しかし、もっとやりきれない思いになる死因が出ています。 少しでも速く商品の置いてある場所に行こうとダッシュをした人たちの中で、運悪く躓いて転んだ人がいても、その人を助け起こすのではなくて踏みつけにして通って行く人が多くて、その結果亡くなってしまう人が過去にふたりもいたという事実です。 しかも、犠牲者のひとりは61歳の男性でしたが、もうひとりは34歳の男性でした。体力的にはピーク近い状態の人だったでしょう。 さすがに犠牲者はふたりだけですが、負傷者の数がいちばん多いのは、この転んだ人が踏みつけにされることなのです。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に(後編)
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

他人を踏みつけにしてでも速く商品を確保しようとする当人たちには、殺意はおろか、相手に危害を加える意図さえないのかもしれません。 ただ、悪意がなければそのほうがマシだと言えるでしょうか。 どんなに貴重な商品がどんなに安く手に入るとしても、そのために転んだ人を踏みつけにして平然としている人たちが大勢いる社会は、はたしてまっとうな社会でしょうか。 少なくとも、害意を持って人を付け狙う人たちの多い社会同様にすさんだ社会だとしか言えないのではないでしょうか。 この問題に取り組んだ社会心理学者の結論は、こうした所業に及ぶ人が多い根本的な原因は「不平等感」だということだったそうです。 「アメリカはもう、早朝から何時間も待ってやっとお目当ての商品を手にしたと思ったら、後ろから来たもっと強い人間に押しのけられたり、突き飛ばされたり、ひったくられたりして、その商品を失ってしまう社会になっている」という認識が根底にあるというのです。 たしかにそうかもしれません。 でも、それなら「なるべくそういう不公平が無いように、きちんと並んで自分の順番が来るまで待とう」と考えるのが、ふつうの人間ではないでしょうか。 「それなら自分は強くて他人から商品を奪い取る側の人間になろう」という世の中では、救いがありません。 アメリカは、確実にその救われない社会になっていく途上にあります。 そして、その先頭に立っているのは決してここに登場するモールで押し合いへし合いをしている人たちではなく、一生混雑するモールで買いものをする必要など感じることもなく、優雅に贅沢さんまいで暮らしているエリートたちなのです。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に(後編)
(画像=Taylor Swiftさん Wikipediaより CHUYN/iStock (編集部)、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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