(3)宇宙ビジネス業界マップ「製造・インフラ」と注目企業

まずは、「製造・インフラ」として、ロケットや人工衛星、地上局など宇宙利用を実現するための機器を製造する企業から、宇宙利用を促進するためのシステムを開発する企業を紹介します。

製造分野はロケット、人工衛星、地上局の3つに分かれています。特に小型ロケットや小型衛星の開発企業が、続々と投資金額を獲得し計画が進んでいます。

また、打ち上げ後、衛星のデータを利用につなげるためのシステムを開発する企業も多くなってきました。

衛星データは、衛星から利用事業者にそのまま提供するには利用事業者自身に解析能力がないといけないため、データを利用しやすいようにプラットフォームを整備したり、画像を解析して利用者に提供する事業者も宇宙業界の中での存在感が強くなってきています。

それぞれを丁寧にみていくと、既存ビジネスの課題とビジネスチャンスが見えてくるかもしれません。

宇宙ビジネスとは~業界マップ、ビジネスモデル、注目企業、市場規模~
(画像= 宇宙製造・インフラ業界マップ
Credit : sorabatake、『宙畑』より引用)

人工衛星

人工衛星とは、本記事の冒頭で紹介した宇宙利用(ミッション)を実現するために、宇宙空間に設置される機械であり、宇宙空間への輸送はロケットによって行われます。

衛星開発・製造会社

衛星を設計製造する企業。ミッションを実現することができる衛星を考え、形にします。

<代表的な企業>
・大型衛星
Lockheed Martin(米)、Boeing(米)、Space Systems/Loral (Maxar Technologies)(米) 、Airbus defence and space(欧)、Thales Alenia Space(欧)、三菱電機(日)、NEC(日)

・小型衛星
Surrey Satellite Technology(Airbus Group SE)(英)、York Space Systems(米)、Planet(米)、GOMspace(瑞)、キヤノン電子(日)、アクセルスペース(日)

部品供給会社(人工衛星)

長期間宇宙空間(真空、放射線など)に耐えることができる部品を提供する企業。

<代表的な企業>
Honeywell(米)、Sodern(Ariane Group)(仏)、Raytheon(米)、MDA(Maxar Technologies)(加)、Berlin Space Technologies(独)、ThrustMe(仏)、日本飛行機(日)、IHIエアロスペース(日)、多摩川精機(日)

ロケット(輸送系)

ロケットとは、衛星を地上から宇宙空間へ輸送するサービスです。荷物を運ぶ運送業のトラックや、乗客を運ぶ飛行機や新幹線をイメージしていただくと良いかもしれません。

輸送業であるロケットに求められるのは、安く・確実に(失敗せずに)・乗り心地良く、目的の場所まで到達できることです。

ロケット開発製造会社

ロケットを設計製造する企業。再利用可能ロケット、小型ロケットなど、より効率的、かつ、低コストで宇宙へモノを運べるロケットを考え、形にします。

<代表的な企業>
・大型ロケット
SpaceX(米)、Blue Origin(米)、Airbus defence and space(Airbus Group SE)(欧)、三菱重工業(日)

・小型ロケット
Rocket Lab(米) 、Astra(米)、Firefly Aerospace(米)、インターステラテクノロジズ(日)、スペースワン(日)

部品供給会社(ロケット)

ロケットの姿勢を制御するための角速度計測器や、高温に耐えられる断熱材など、搭載した衛星などを宇宙まで正確、かつ、無事に運べるロケットを作るための部品を提供する企業。

<代表的な企業>
Aerojet Rocketdyne(米)、RUAG(欧)、L3 Space & Sensors(米)、川崎重工業(日)

打ち上げサービスプロバイダー(ロケット・ISS・衛星放出など)

ロケット開発製造会社からロケットを購入し、衛星打ち上げサービスを提供する企業。近年では、ロケットからだけではなく、ISSや衛星から衛星が放出されるサービスも提供され始めています。

・ロケット
Spaceflight(米)、Precious Payload(米)、GK Launch Service(露)

・ISS
NanoRacks(米)、Space BD(日)

・衛星
D-Orbit(伊)

地上システム

衛星は打ち上げて終わりではありません。ミッションを予定通り行うためには、地上から衛星の様子を監視し、適切な指示を送る必要があります。また、衛星から送られてくるデータを受信するシステムも必要です。

地上システム開発・製造会社

衛星からデータを受信、解析することで衛星の状態を確認する地上のシステムを構築する企業。

<代表的な企業>
L3(米)、Kratos Defense and Security Solutions(米)、NEC(日)

部品供給会社(地上システム)

地上システムに用いられる部品を製造する企業。

<代表的な企業>
ZODIAC(仏)、ISIS(米)、富士通(日)

その他製造・インフラビジネスに関わるサービス

保険

地上での輸送時から、ロケット打ち上げの失敗や、軌道上での衛星の故障など、宇宙関連事業におけるリスクに対しての保険を提供する企業。

<代表的な企業>
BritGroupServices(英)、Munichre(独)、三井住友海上(日)、Marsh & McLennan Companies(英)

利用事業者

宇宙利用ビジネスを行う事業者。利用の観点から区分けしています。技術的に見ると、衛星が提供するサービスの種類は3種類に分けられます。衛星から撮影した画像サービス、通信サービスと位置情報サービスです。

通信サービス利用事業会社

衛星携帯電話に代表されるような、衛星通信を利用したサービスを提供する企業。

<代表的な企業>
Softbank(日)、KDDI(日)、BeepTool(尼)、EchoStar(米)、Globalstar(米)、Intelsat S.A.(盧)、MEASAT(馬)

通信サービス事業者

通信衛星を所有し、通信サービスを提供する企業。
従来までは高~静止軌道に配置された衛星で通信サービスを提供する企業が中心でしたが、近年は、小型衛星の性能向上により低~中軌道に多くの衛星を配置(コンステレーション)してサービス提供を試みている企業が増えています。

宇宙ビジネスとは~業界マップ、ビジネスモデル、注目企業、市場規模~
(画像= 計画中の11の通信コンステレーション
Credit : sorabatake、『宙畑』より引用)

<代表的な企業>
Eutelsat(欧)、Intelsat(米)、スカパーJSAT(日)、OneWeb(英・印)、SpaceX(米)、O3b(米)、Orbcomm(米)、Amazon(米)、SpaceX(米)

位置情報サービス利用事業者

位置情報を利用したサービスを提供する企業。

<代表的な企業>
Niantic(米)、カーナビ会社、ドローン会社

位置情報提供機関(事業者)

各国の政府機関は測位衛星を所有し、位置情報に用いる電波を無償で提供しています。アメリカのGPSがその代表例ですが、ロシアやヨーロッパ、中国も独自のGPSのようなシステムを有しています。また、位置情報を利用してビジネスを行っている企業。

<代表的な企業>
米軍、内閣府など各国政府機関

画像サービス利用事業者

衛星から送られた画像データから情報を取り出し、サービスを提供する企業。

<代表的な企業>
Orbital Insight(米)、DescartesLabs(米)、SpaceKnow(米)、Ursa Space Systems(米)、日立ソリューションズ(日)

画像サービス事業者

地球観測衛星を所有し、衛星画像を販売する企業。※必ずしも所有している訳ではありません。

<代表的な企業>
Digital Globe(米)、e-GEOS(欧)、JSI(日)、Geocento(英)

データプラットフォーム事業者

データの横断的な連携や、解析を可能にする場所を提供します。

<代表的な企業>
Amazon(AWS)(米)、Google(Google Earth Engine)(米)、さくらインターネット(Tellus)(日)

宇宙からのサポート

軌道上ガソリンスタンド

軌道上で運用に必要な燃料を供給できるサービス。衛星が地上に戻ることなく、運用し続けることができます。供給するために、ロボットアーム技術が用いられます。

<代表的な企業>
Space Systems/Loral(Maxar Technologies)(米)、Orbit Fab(米)

保険

運用中の衛星に放射線などによりトラブルが生じたとき向けの保険サービスです。

<代表的な企業>
Brit Group Services(英)、Munichre(独)、三井住友海上(日)、Marsh & McLennan Companies(英)

軌道変更サービス

衛星の軌道を変更するための衛星。寿命を終えた衛星や、故障した衛星の運用立て直しを行います。

<代表的な企業>
D-Orbit(伊)、SpaceLogistics LLC(英)、Momentus(米)

軌道上製造

軌道上で3Dプリンターなどで製造を行うサービスです。

<代表的な企業>
Made In Space(米)、Space Tango(米)

宇宙環境保護

人工衛星の破片などの宇宙ゴミを破棄し、運用中の人工衛星や探査機を守ります。

<代表的な企業>
ASTROSCALE(日)、LEOLABS(米)

宇宙空間通信ネットワーク

衛星の電波が受信できない場所にいても、ほかの衛星を経由して通信できる環境を整えます。

<代表的な企業>
Audacy(米)、Sci_zone(蘭)

地上からのサポート

地上局ネットワーク

衛星を運用するためのアンテナを提供します。近年はユーザー同士のアンテナをシェアリングするサービスも現れています。利用することで、衛星との通信時間を安価に伸ばすことが期待されています。

<代表的な企業>
Amazon(米)、Infostellar(日)、KSAT(諾)

衛星運用会社

衛星から得られたデータよりその状態を確認し、継続的なミッション運用を行う企業。地上局設備の監視も行います。

<代表的な企業>
SES(盧)

人工衛星キット

簡易に人工衛星を制作し、宇宙の利活用ができる機会を提供します。

<代表的な企業>
GOMspace(瑞)、ISIS(米)、Pumpkin(米)

拡がる宇宙利用を支える製造・インフラ(製造・インフラ編まとめ)

宇宙ビジネスを支える製造・インフラを担う事業について紹介しました。宇宙利用を促進するには、それを支える製造・インフラの事業が整備されていることが前提であり、逆に言うと、この事業がしっかりを整備されていれば利用がその分拡大できる可能性があります。

政府を顧客とする大企業ばかりが製造を担うのではなく、宇宙利用の拡大を受けて民間をターゲットにした製造・インフラビジネスを起こすベンチャーの参入が増えています。

衛星を軌道に導入する手段もロケットだけではなく、ISSや衛星自体から別の小型衛星を放出するなど、利用を促進するための技術もさまざまなものが計画されるようになってきました。

また、アメリカではNASAが宇宙ステーション往還機の開発を民間に任せる方向性を明確にしています。気象衛星を担当していたアメリカ海洋大気局(NOAA)も、民間の気象衛星情報を積極的に採用していく方針です。

同じ政府系のビジネスでも、今後民間が果たす役割が大きくなっていくものと思われます。このようなビジネスでは成功すれば政府が顧客になる、すなわちお金を払うことが明らかであるため、ベンチャー企業が比較的投資を集めやすい傾向にあります。