(3)インターネットの速度は5Gより速い? 想定速度は10 Gbps
世界中にインターネット接続を提供することを目標としているStarlinkですが、気になるのはインターネット接続をどの程度のクオリティーで提供できるかでしょう。

Source :twitter.com/thesheetztweetz/status/1321181245951348746、『宙畑』より引用)
まず、Starlinkの通信に関して、Starlinkの現状と将来目標の2つに分けて話を進めます。Starlinkでは、すでに1,000機以上の人工衛星が打ち上げられ、アメリカ、カナダ、イギリスではベータ版(お試し版)のサービス提供がスタートしています。あくまでベータ版ですが、現状どれだけの通信ができているかが分かります。
まずは通信スピードからです。Starlinkが目指している通信速度目標は下りで10 Gbpsです(G=ギガは0が9つという意味)。bpsはビット毎秒と読み、ビットはデータの大きさを示すので、1秒間にどれだけのデータをやり取りできるかの目安となります。この数字が大きければ大きいほど、大容量通信が可能です。
では、10 Gbpsというのは、どの程度の数値なのでしょうか。現在モバイル通信の主流となっている4G通信の場合、700Mbps(M=メガは0が6つという意味)程度であると言われています。つまり、その倍程度の通信スピードを目指していることになります。ちなみに、今話題の5G通信の場合、最速で20Gbps程度と、Starlinkが達成しようとしている速度は5G回線と同等の通信速度を実現させようとしているようです。
現在提供されているベータ版の通信速度は下りで70Mbpsから130Mbps程度。4G通信の700Mbpsに比べてもまだ1割程度の速度ということになります。

もう一つ、通信の「遅延」は非常に重要な要素になります。
レイテンシー と呼ばれるこの数値は、命令を送って反応が返ってくるまでの時間のことです。これによってユーザーの満足度は大きく変わると言われており、低遅延の通信に慣れている現代人はわずかな差にも敏感になっています。
衛星を介した通信は、一般に地上・海底ケーブルよりも物理的な距離が大きいので遅延が大きいと言われています。Starlinkは静止衛星がある軌道3万6千kmよりも低い軌道を周回しているため、その分遅延を抑えることができています。
現在のベータ版では、その速さは31ミリ秒です。
一般的なインターネット接続では50ミリ秒以下であれば快適に操作ができると言われているため、この数字は悪くない数字でしょう。一方でオンラインゲームなどのデータの遅延が許されないようなものでは、30ミリ秒以下でないといけないと言われています。
Starlinkは最終的にオンラインゲームでも利用が可能な通信にするとされているので、今後遅延速度についても改善されるでしょう。
現在はあくまでβ版であり、今後通信速度と通信遅延、加えて世界中の通信のカバー範囲は大幅に改善される見込みです。今後10倍以上の衛星が軌道に投入されることにより、各衛星がカバーする領域がより限定的になることで通信速度が向上されることが期待されます。また、より低軌道に衛星が配備されることで、通信遅延も改善される見込みです。そこに、追加された人工衛星の管理のための基地局の増設、通信処理のソフトウェアの改善も加わることになります。 実際にイーロンマスク氏は自身のTwitterで、2021年以内に通信速度を300Mbpsに、通信遅延を20ミリ秒にすると宣言しています。
しかし、注意しておきたい点が一つ。Starlinkではフラットパネルアンテナを利用して通信を行う必要があり、スマホなどで直接通信を行うようなものではありません。モバイル通信とは異なるものの、飛行機や船、トラックなどにアンテナを装備することで、これまで通信が難しかった地域でのインターネットアクセスが可能になるという大きなメリットもあり、実用の幅の広さに期待が集まっています。
バックホール回線としての利用
宇宙からインターネットを届ける衛星インターネット通信は、直接ユーザーにインターネットを届ける以外にも活用事例が出てきました。
代表的な例は、KDDIとSpaceXの提携です。日本国内に衛星インターネット通信が入ってきたことで話題に上がりましたが、ここでは既存の回線の「バックホール回線」としての利用が目的とされています。
ざっくり言うと、バックホール回線とは「スマホ/PC① -> 基地局 -> 交換曲 -> 基地局 -> スマホ/PC②」という一般的な通信経路でにおいて基地局と交換局の通信を行う回線のことです。回線を地上で引くのが難しい山間部や、通信が途絶えるような災害の時に、衛星回線を使って、通信を可能にすることが、KDDIとstarlinkの提携です。
このような衛星ブロードバンドの参入方法が今後増えてくるであろう背景には、既にインターネット通信が可能な地域にとってインターネット通信を人工衛星に切り替える必要性がない、というところだと考えられます。
特にSpaceXは世界中をカバーするネットワークを構築することを目標としており、そのメインの消費者は「インターネット接続から隔離されている人々」です。既にインターネットのインフラが整っている地域、特に日
本全体では新たに衛星ブロードバンドに移行する必要性が高くありません。このような背景があるため、衛星ブロードバンドは既存の通信インフラのバックアップや強化といった立ち位置になることが今後予想されます。
(4)SpaceXが通信衛星事業に参入する強み
SpaceXが他社の通信衛星コンステレーション事業と比較した際の強みはなんといっても自社でロケットを製造し、打ち上げられること。
SpaceXは2021年3月14日までに21回の打ち上げを行なっており、すでに1,200機程度、計画全体の10分の1の人工衛星の打ち上げが完了しています。
SpaceXは2021年3月17日時点で8日に一度という驚異的なペースでロケットを打ち上げています。このようなスピード感で打ち上げを進めていることることができているのは他社の通信衛星事業を狙う企業との大きな差となり、プロジェクト全体のスピード感を早めています。もちろん、自社でロケットを持っているということはコストダウンの観点でも大きな強みとなっています。
ロケット打ち上げのペースは今後もさらに上がる見込みで、2021年中にはStarlink12,000機の衛星コンステレーション完成を目指しています。

Credit : SpaceX、『宙畑』より引用)
さらにSpaceXは、人工衛星の軌道投入の許可を行う米連邦通信委員会(FCC)に対して、追加で30,000機のStarlink衛星の打ち上げ申請をしており、もしこの審査が通れば、Starlink衛星は将来的に42,000機になる可能性も。今後はStarlinkのサービスエリアの拡大に加えて、打ち上げ機数にも注目です。