スペースデブリ対策はどこまで進んでる? 研究開発が進む技術〜基礎編〜

スペースデブリ対策は、大きく2つの方向性があります。

一つは、これから打ち上げていく人工衛星やロケットがデブリにならないようにしっかりと処理すること。これが、先程紹介したPMDです。

そしてもう一つは、現時点で軌道上にあるスペースデブリを減らしていくことです。ケスラーというNASAの研究者の予測によると、今後の全世界の打ち上げを全て取りやめてデブリの発生件数を抑えたとしても、現在軌道上にあるデブリだけで衝突・破砕を繰り返し、その数が増えていきます 。この予測はケスラーシンドロームと呼ばれ、1970年代から提唱されてきました。この問題を解決するために、世界中で様々な研究開発が行われています。キー技術は「監視・観測」「防御」そして「除去・削減」です。それぞれを解説していきます。

深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策〜
(画像= 軌道上の宇宙物体の推移
Credit : NASA、『宙畑』より引用)

監視・観測

軌道上のデブリの状況を正確に把握することは、運用中の宇宙機を守ったり、デブリを除去するのに不可欠です。デブリを含む宇宙空間を周回する物体の監視は、「米国宇宙監視ネットワーク」にて検出・追跡・カタログ化・識別されています。欧州や各国でも、宇宙状況把握(Space Situational Awareness:SSA)として監視が進められています。近年はスペースデブリに関わらず、安全保障のため省庁で予算が積まれており、日本では、岡山県の美星スペースガードセンターや上齋原スペースガードセンター等監視設備の強化 が進められています。

深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策〜
(画像= 内閣府 宇宙基本計画 工程表より抜粋l、『宙畑』より引用)

観測方法は大きく分けて2つ、光学監視とレーダー監視があります。

光学望遠鏡観測は、夜間にデータを取得しカタログと比較 することで、登録されていない物体を検出するものです。方法がシンプルな一方、観測範囲・時間に限界があり、天候によっては観測できないなどの制約があります。

レーダー観測は、レーダーを用いて物体を追尾する仕組みで、光学と比べて天候によらずに観測でき、さらに1回の観測データ取得で、再補足に必要な軌道決定精度を得ることができるといったメリットがあります。

観測をしっかりと行うことで、デブリの衝突を予測することができ、事前に運用中の宇宙機の軌道を変更しておくなどの対策を取ることができる場合もあります。

防御

「当たっても大丈夫な盾を用意する」が、防御の基本的な考え方です。質量に制約のある衛星にはなかなか適用できませんが、宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーションの外壁には「ホイップルバンパー 」という防御材が取り付けられています。外壁のさらに外側にもう一層の薄い金属板を取り付け、デブリの衝突エネルギを熱エネルギに変換することで外壁を守ります。衝突した部位は熱で溶けて穴が空きますが、1cm以下のデブリを防御することができます。

深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策〜
(画像=「きぼう」日本実験棟にて直径11mmの模擬スペースデブリを衝突させた実験結果、『宙畑』より引用)

除去・削減

ケスラーシンドロームにより「そもそものデブリ数を減らすこと」も重要とされています。これをActive Debris Removal:ADRと呼びます。この技術は、大型・巨大な物体の除去を行うことで、軌道上での爆発や衝突による破片の発生源をなるべく効率的に除去していこうとするものです。ケスラーやその他の研究者の研究では、年間5つの高リスク物体を除去することで、軌道上の環境を安定させることができると言われています。

低軌道のADR技術には、接近、運動推定と捕獲、軌道変更という4つの工程があります。接近とはデブリに近づいていく技術です。国際宇宙ステーション等と違い、デブリは我々のコントロール下にない物体であることがほとんどです。そのような物体を非協力物体と呼びますが、この非協力物体は、掴んだり何かしらの動作を加えるための目印もなければ、接近時にしっかり接近できているかレーザ距離計で計測するためのレーザ反射板(リフレクタ)もありません。さらに、制御していない物体は宇宙空間で受けた外乱により回転していることが多いため、物体を観測し、どのような運動をしているか推定した上で慎重に近づかないと、自分自身が相手の運動に巻き込まれ、破壊されてしまう恐れがあります。

運動推定を行い接近することができたら、最もリスクを伴う捕獲という過程があります。捕獲方法は銛(もり)を刺す、ロボットアームを使う、トリモチのようなものでくっつける、網で囲うなど様々な方法が検討されていますが、いずれも軌道上で実証を行っている段階です。最後に、廃棄軌道と呼ばれる高度2,000km以上に上昇移動させるか、大気圏に突入する軌道に降下移動させます。

静止軌道では、レーザーを利用して微小デブリを融解させたり、デブリの軌道を変更するといった方法が検討されています。

以上のように、技術的な面でも様々な課題があり、一つ一つを研究する研究者同士、開発者同士、国同士が協力し合いながら進めていくことが重要です。

民間企業の動向

監視・観測

LeoLabsという低軌道SSAを行う企業から2020年10月16日に軌道上で物体衝突が起きる可能性が示唆され話題になりました。デブリの監視・観測は、このようにSSAを行う企業が同時に担っていることが多くあります。また、従来より天体観測を行う望遠鏡やアンテナを作っている企業も関係します。
2021年4月には、同企業がコスタリカに設置したレーダーの運用を開始したと発表もありました。新たなレーダーの導入により、全球をカバーできるようになったほか、地球低軌道上の最小2cm大の衛星やスペースデブリを追跡できるようになりました。

監視・観測には以下のような企業が関わっています。
※これらの企業が、合わせて除去・削減などの技術を研究開発している場合もあります
Airbus S.A.S./AGI/BAE Systems/Electro Optic Systems Pty Ltd/LeoLabs/Lockheed Martin Corporation/Northrop Grumman Corporation/The Boeing Company

防御

防御技術については、あまり動きが多くないように見受けられます。無人宇宙機の場合、その一つ一つにデブリ防御シールドをつけるのは質量の観点でもコストの観点でも、パフォーマンスがよくないのではないかと考えられます。ただし、有人の宇宙開発が今後拡大していくに従って、人命をデブリに奪われない宇宙機設計の重要性が高まっていくはずですので、今後研究が加速する可能性は十分にあるのではないかと思います。

現在、国際宇宙ステーションに取り付けられているバンパーは大学ややIHI Horldings.が関連が関連特許を取得しています。

除去・削減

Surrey Satellite Technology Ltd.(SSTL)は、ADR技術を古くから研究していました。2013年には、Astroscale(アストロスケール)という日本発のベンチャーが創業し、2017年にはSSTLとAstroscaleの協業が決まりました。

Astroscaleは国内外の様々な衛星エンジニアを集めてスピーディな開発を行っており、ロボット技術のGITAIや静止軌道で衛星放送を行うスカパーJSATなど様々な国内企業との連携で、技術実証に向けて突き進んでいます。
2017年11月にソユーズロケットで、デブリ観測衛星「IDEA OSG1」を打ち上げましたが、ロケット側の問題により、軌道投入に失敗していましたが、2021年3月に実証衛星「ELSA-d」を打上げました。打上げられたELSA-dは、捕獲機と模擬デブリで構成されています。実証実験では、捕獲機と模擬デブリの距離を徐々に離しながら回収し、最終的に大気圏に再突入する予定です。

除去・削減には以下のような企業が関わっています。
※これらの企業が、合わせて監視・観測などの技術を研究開発している場合もあります
Lockheed Martin Corp./Airbus SE/PAO RSC Energia/BAE Systems Plc/Cobham Plc/Astroscale Holdings Inc./Northrop Grumman Corp./Boeing Corp./Analytical Graphics Inc./川崎重工業株式会社/Electro Optic Systems Holdings Ltd./スカパーJSAT株式会社