ネット証券の大手であるSBI証券と楽天証券は、IPOにも非常に力を入れている。IPO投資を始める場合、この2社のどちらに口座開設をするかで迷う人も多いだろう。今回はSBI証券と楽天証券について、IPO投資という観点から比較をしてみよう。それぞれの強みを理解した上で、どちらでIPO投資を行うかを検討したい。

IPO取扱実績でSBI証券と楽天証券を比較

まずは、両社がIPOの案件をどの程度手掛けているかを比較してみよう。2019年1月から8月末までの間に国内取引所(Tokyo Pro Marketを除く)に上場したIPO銘柄44社の内、両社の取扱件数は次の通りである。

SBI証券……43件(関与率97.7%)
楽天証券……12件(関与率27.2%)

SBI証券は44社中43社のIPOを取り扱っており、関与率は97.7%となっている。楽天証券も12社を取り扱っているものの、SBI証券との差は大きい。

2018年の実績も見てみよう。2018年の国内取引所上場銘柄(Tokyo Pro Marketを除く)90社の内、両社の取扱件数は次の通りである。

SBI証券……86件(関与率95.5%)
楽天証券……11件(関与率12.2%)

2018年のデータでも、SBI証券の圧倒的な関与率の高さが分かるだろう。楽天証券も近年は取扱案件を増やしてきているものの、実績から見るとIPO案件の9割以上に関与しているSBI証券が大きなアドバンテージを持つと言える。

IPOの主幹事件数でSBI証券と楽天証券を比較

次に、IPOにおける両社が主幹事を引き受けた件数を比較しよう。主幹事案件は割当株数が多くなるため、IPOの当選を狙うには主幹事を多く務める証券会社との取引が投資家にとってのメリットとなる。2019年1月から8月末までの間に国内取引所(Tokyo Pro Marketを除く)に上場したIPO銘柄44社の内、両社が主幹事を務めた件数は次の通りである。

SBI証券……4件
楽天証券……0件

SBI証券は4社2019年に入って既に4社のIPOで主幹事を務めている。一方の楽天証券は2019年に主幹事を務めた案件は無い。

2018年の実績も見てみよう。2018年の国内取引所上場銘柄(Tokyo Pro Marketを除く)90社の内、両社が主幹事を務めた件数は次の通りである。

SBI証券……11件
楽天証券……0件

SBI証券は2018年にも11社のIPOで主幹事を務めている。1つはソフトバンク<9434>で6社の共同主幹事の1社であり、単独主幹事案件は10社である。一方の楽天証券は2018年においても主幹事を務めた案件はない。

日本証券取引所グループは主幹事を引き受ける体制が確認出来た証券会社を「主幹事候補証券会社一覧」として公表している。ここにはSBI証券の名前はあるが、楽天証券はない。楽天証券は体制が整っておらず、現状では主幹事を務める可能性は高くないと言える。IPOの主幹事という観点で見れば、SBI証券に大きなアドバンテージがある。

IPOの抽選方法でSBI証券と楽天証券を比較

IPOにおいては、引き受けた株式を投資家にどのように振り分けるかといった点でも証券会社ごとに違いがある。大手対面証券などでは、引き受けた株式の大半を特定顧客へ振り分け、一般の個人投資家に回す数量が少なくなるというケースもある。SBI証券と楽天証券の抽選方法をそれぞれ紹介しよう。

SBI証券……個人投資家への配分のうち70%が抽選に回される

SBI証券では、個人投資家に配分される株式の70%が抽選によって配分される。この割合だけで見ても、大手対面証券などよりも広くIPO投資の機会があると言えよう。

SBI証券ではIPOの申し込みにあたって、原則として申込数量に上限は設けられていない。抽選時に申込株数分の資金が必要ではあるが、複数単元で申し込めば当選確率を上げることができる。

SBI証券で必ず押さえておくべき「IPOチャレンジポイント」とは?

SBI証券では、個人投資家に配分される株式の70%が抽選に回されると説明したが、残りの30%は「IPOチャレンジポイント」という制度に基づき配分される。この「IPOチャレンジポイント」という制度はSBI証券でIPOを申し込むにあたり、非常に重要な要素となる。

「IPOチャレンジポイント」とは、IPOの抽選に外れた場合にポイントが付与される制度である。付与されたポイントは次回以降のIPO申込みの際に使用できる。使用したポイントが多い人から順に配分されていくのだ。それでも当選しなかった場合、使用したポイントが戻ってくるだけでなく、落選分のポイントが新たに付与される。申し込み続けていれば、外れるだけポイントが加算され、いつかは当選するといった仕組みだ。

SBI証券におけるIPOの当選確率は基本的に資金力に左右される。一方で「IPOチャレンジポイント」があるため、資金の大小に関わらず申し込みを行うメリットがある。

楽天証券……個人投資家への配分は原則すべてが抽選に回される

楽天証券では、原則として個人投資家へ配分される株式の全てが抽選に回される。平等という観点では大きなアドバンテージと言えよう。

さらに、楽天証券では銘柄ごとに申込数量の上限を設けている。人気案件の場合、申込数量の上限は1単元に設定されることも多いため、資金の大小に関わらない平等な抽選機会が得られるという利点もある。

抽選方法に関しては、「IPOチャレンジポイント」という独自の制度を持つSBI証券と、平等を重視する楽天証券で甲乙つけ難い。

売却手数料でSBI証券と楽天証券を比較

IPO投資は売却して初めて利益確定となるが、売却時には売却手数料が発生する。この売却手数料において、SBI証券と楽天証券を比較してみよう。

実は、SBI証券の「スタンダードプラン」、楽天証券の「超割コース」という両社の一般的な手数料プランを比較すると、全く同じ手数料体系となっている。(※2019年9月時点)

取引金額5万円以下……50円(税抜)
取引金額10万円以下……90円(税抜)
取引金額20万円以下……105円(税抜)
取引金額50万円以下……250円(税抜)
取引金額100万円以下……487円(税抜)
取引金額150万円以下……582円(税抜)
取引金額3,000万円以下……921円(税抜)
取引金額3,000万円超……973円(税抜)

ネット証券ということもあり、手数料も非常に割安となっている。売却手数料に関しては、SBI証券、楽天証券のどちらでもほとんど差はないと考えていいだろう。

IPO投資なら楽天証券よりSBI証券が総合的に優れているが……

IPO投資という観点に立てば、SBI証券の方が総合的に優れていると言えるだろう。取扱銘柄の多さは証券会社のなかでも群を抜いて多く、主幹事案件の件数もネット証券でトップである。割安な手数料体系や「IPOチャレンジポイント」という制度で多くの投資家にチャンスがある点も加味すれば、IPO投資を行うなら、SBI証券は外せない証券会社と言えるだろう。

ただしIPO投資を行う場合、複数の証券会社を利用するメリットが大きいことも事実である。特別な事情がない限り、楽天証券にも口座を保有しておくといいだろう。楽天証券は2018年3月期の決算資料においてIPO引受業務を強化する方針を打ち出しており、事実、取扱実績は徐々に増加している。取扱銘柄が増えれば、平等な抽選方法や割安な手数料体系などのメリットがさらに活きてくるだろう。

文・樋口壮一(金融ライター)
 

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