なぜ日銀がETFを買い入れるのか?買い入れの対象や市場へのインパクトなどを解説

2020.8.1
投資
(写真= semisatch/stock.adobe.com)
(写真= semisatch/stock.adobe.com)

日銀は2020年3月16日の金融政策決定会合で、ETF(上場投資信託)の購入目標額を当時の6兆円から12兆円に倍増することを発表した。これによる株価の押し上げ効果を期待する声もあるが、果たして効果はあったのだろうか。

目次
1.日銀のETF買い入れ政策とは
2.日銀はどんなETFを買っているのか
3.日銀のETF買い入れのタイミング
4.日銀のETF買い入れによる市場へのインパクト
5.日銀がETFを購入しても株価は上がらない

1.日銀のETF買い入れ政策とは

日銀がETFの買い入れを行う目的と実績について確認する。

日銀がETF買い入れを行う目的

日銀の重要な役割の一つに「物価の安定」がある。長いデフレから抜け出すため、量的・質的金融緩和を通じて、前年比上昇率2%の実現を目指している。そのための手段が、資金を市場に供給する「資金供給オペレーション」だ。

ETFやJ-REIT(不動産投資信託)の買い入れは、国債などの買い入れと同じく、金融市場に資金を供給するための主な手段になっている。多くの資金が出回ることで民間企業などへの投資が増え、経済が活性化することで物価の上昇を狙うものだ。

日銀のETF購入実績

日銀がETFの買い付けを開始したのは、2010年12月。当初は年間4,500億円程度を買入額の目処としていたが、2013年4月に日銀の黒田総裁が「異次元緩和」をスタートさせ、ETFの買入額を年間1兆円に増額すると発表した。2014年10月にはETFの買入限度額は年間3兆円に、2016年7月には年間6兆円にまで増額された。2019年9月末時点で、日銀は31兆6,112億円ものETFを保有している。

冒頭で述べたように、2020年3月からは12兆円もの資金をETFに投じており、日銀は2020年7月15日の発表時点でも積極的な買い姿勢に変更がないことを示している。コロナの影響で乱高下する株式市場の不安を和らげる目的もあるようだ。

2.日銀はどんなETFを買っているのか

ETFには、国内株式・海外株式・国内債券・海外債券・コモディティ(商品)など様々な種類がある。日銀が買い付けをしているのは、国内指数を対象にしたものだ。

日銀のETF買い入れ対象

2020年5月1日以降のETF買入額の配分は、以下のとおりだ。

  • 東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価(日経225)、JPX日経インデックス400(JPX日経400)の3 指数に連動する ETF ……約25%
  • TOPIX に連動する ETF……約75%

12兆円の大部分は、TOPIXに連動するETFに充てられていることになる。金融市場にはTOPIXをベンチマークとするETFが多数流通しているが、どのETFをどれだけ買ったかまでは公表されていない。

日銀は2016年3月、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF買入等に関する特則」を導入した。資金供給よりもごほうび投資の色合いが濃いと言えるだろう。企業支援のため、年間約 3,000 億円のETFの買い付けを行っている。

TOPIXと連動するETFが重視されている理由

TOPIXが重視されているのは、日経平均株価などに比べて構成銘柄が幅広いためだ。日経平均は225銘柄、JPXは400銘柄だが、TOPIXは約2,000銘柄と多くの企業に分散して投資することができる(2020年6月末時点)。

TOPIX連動型ETFはTOPIXに採用されている、または採用が決定された銘柄の株式を投資対象にしている。このETFを購入するということは、対象銘柄すべてを少しずつ買うことを意味する。

例えば、TOPIX連動型ETFで時価総額が最も高い、野村アセットマネジメントの「TOPIX連動型上場投資信託」の投資比率を見てみよう。投資比率の高い順にトヨタ自動車、ソニー、三菱UFJフィナンシャル・グループ、日本電信電話、ソフトバンクグループと続く。日銀は、間接的にこれらの企業の株式を購入していることになる。

3.日銀のETF買い入れのタイミング

日銀のETF買い入れのタイミングには、何か決まりはあるのだろうか。

日銀のETF買い入れのタイミングはどのようにして決まるか

日銀のETF買い入れは信託銀行を通じて行われるが、どのようなタイミングで注文を出すかは明らかになっていない。2016年頃には「TOPIXの前場終値が前日終値から0.2%程度下げると買い入れに動く」との声もあったが、明確な基準は不明だ。

日銀のETF購入の頻度と金額

日銀が1回の買い入れで使う金額は、2016年8月頃からは約700億円だ。2020年3月からは方針が変更され、1日の買い入れ額が1,002億円に増額されている。現在は年間数十回、一定額を上限額の範囲内で買い入れている状態だ。以下は、J-REITや投資に積極的な企業を支援するためのETFを除いた、日銀のETF購入実績の推移である。

2017年……703~739億円/1日×78回=5兆6,069億円
2018年……703~735億円/1日×87回=6兆2,100億円
2019年……701~707億円/1日×58回=4兆880億円

2019年のETF購入実績は4兆880億円と、買付目標額の6兆円を大きく下回ったことで話題になった。ETF購入のタイミングはランダムで、事前に公表されることはない。連続することもあれば、数日間動きがないこともある。

4.日銀のETF買い入れによる市場へのインパクト

個人投資家としては、日銀がETFを買い入れることによってETFの基準価額や株価が上がるかどうかが気になるところだ。

日銀によるETF買い入れの目的は株価を上げることではない

ここで、再び「なぜ日銀はETFの買い入れを行うのか」に戻りたい。市場に資金を供給することで民間の投資を促したいのであれば、国債を購入すれば事足りるはずだ。

この点について日銀は、「リスク・プレミアムの縮小を促すことで金融緩和を一段と強力に推し進めるため」と説明している。リスク・プレミアムとは、端的に言うと「投資家がリスクを嫌う度合い」のことだ。「無リスク金利にいくらの利回りを上乗せすれば、リスクのある株式を買う気になるか」という指標で、リスク・プレミアム高いほどリスク商品が買われない状態を表す。日銀が積極的にリスクマネーに投資することで、市場の活性化を図り物価が上昇することを目指しているのだ。

日銀のETF買い入れによるリスク・プレミアムの低下は限定的

では、日銀のETF買い入れによって、リスク・プレミアムは低下したのだろうか。

日銀の雨宮正佳副総裁は2019年5月30日の会見で、リスク・プレミアムを計る指標として、国債と株式の利回りの差(イールド・スプレッド)やVIX(ボラティリティ・インデックス)を挙げている。

ニッセイ基礎研究所の調べでは、日銀がETFを買い続けている間もイールド・スプレッドは中長期的に上昇しているという。短期的には一定の効果が見られるものの、その効果は持続していないのだ。

日銀によるETF買い入れと株価の動き

日銀による巨額のETF購入が、株価を押し上げることを期待する声もある。その期待を反映してか、日銀のETF買い入れのニュースは連日のように報道された。

2020年3月の新型コロナウイルス感染拡大に伴う金融市場の混乱の際には、日銀がETFの大量買い付けを実施し、株価の暴落を防いだ。しかし、約600兆円ある東証一部の時価総額に対して、1回1,000億円の資金供給オペレーションがどの程度役に立ったのかは疑問である。

株価は堅調に回復しているが、実体経済と国内株式の株価との乖離は米国でも指摘されている。日本は実体経済が厳しい状況にあり、4月の鉱工業生産指数(速報)は前月比マイナス9.1%、訪日外国人の数も激減している。

5.日銀がETFを購入しても株価は上がらない

日銀がETFを買い入れることによって、株価が上昇し続けることを期待するのは危険だ。

日銀のETF買い入れを中長期の投資の参考にすべきではない

日銀が株価を下支えすることによる安心感はあるものの、頻繁に行われると慣れてしまって効果が薄れる。株価は短期的には買い手と売り手の需給バランスで決まるが、中長期的にはファンダメンタルズ(業績や財務状況)に基づく適正価格に落ち着く。そもそも、日銀が株価をコントロールする必要はないはずだ。

日銀の「大株主ランキング」

日銀はETF購入を通じて間接的に企業の株主になっていると書いた。ニッセイ基礎研究所が保有割合を調べたところ、1位はアドバンテスト、2位はファーストリテイリング、3位はTDK、4位は太陽誘電、5位が東邦亜鉛だった。

日銀がこれらの企業の大株主になっているという理由だけで、個人投資家がこれらの銘柄に投資するのは早計だ。個別株にしろETFにしろ、投資はファンダメンタルズの見極めが基本であり重要だからだ。またリスク分散の観点から、日銀が投資しない海外市場にも目を向けたい

 
執筆・

外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
 

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