「日本銀行が政府と共同でインフレ目標を年2%に設定」
このような見出しのニュースや新聞記事を、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
第二次安倍内閣がスタートした2013年から日本経済はインフレに向けて舵を切っており、2020年9月16日に発足した菅内閣においても、菅首相は就任会見の際に経済再生を重要課題に掲げ、アベノミクスを継承する考えを改めて表明しました。
資産の価値を守るためには、インフレに強い投資商品をアセットアロケーション(資産配分)に加える対策が必要です。
そこで今回はインフレの仕組みや世界と日本におけるインフレ事例、デフレの仕組みについて解説します。
おすすめのインフレ対策方法についても紹介しますので、今後の資産運用の参考になれば幸いです。
インフレとは
インフレーション(以下、インフレ)とは、物やサービスの値段が上がることでお金の価値が目減りする状態のことです。
100円の缶ジュースが中身も味も全く同じなのに120円になったとします。
100円で買えたものが買えなくなるということは、インフレ後の100円には、以前の100円と同じ価値がないということです。
ハイパーインフレとは
ハイパーインフレとは、物価の上昇に歯止めが効かなくなってしまう状態です。
ハイパーインフレが起こると通貨の価値が極端に下落し、最終的には「日用品を1つ買うのにも両手に札束を抱えなければいけない」ような状態まで進行します。
国際会計基準によれば「3年間で累積100%以上の物価上昇」が要件の1つとされており、3年で物価が2倍に上昇した場合はハイパーインフレに該当することになります。
世界のハイパーインフレ事情【ジンバブエドル】
ジンバブエの通貨「ジンバブエドル」がハイパーインフレを起こしたニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。
2000年代初頭、労働者からの賃上げ要求などに対応するために、政府がジンバブエドルを発行し過ぎたことがハイパーインフレの要因の1つです。
無節操に通貨を発行したことで通貨供給量(マネーサプライ)が上がり、インフレが進行し過ぎて物価が極端に上昇しました。
また当時のムガベ政権が、「農地接収法(白人地主の農地を、土地を持たない黒人労働者に分配)」を打ち出したため、白人地主の多くは国外に逃げることになります。
黒人労働者は土地を手に入れましたが、農業のノウハウを学んでいなかったため農業生産性は大きく下落、食糧不足が発生しました。
さらに白人率いる外資系企業が引き揚げたことで物資不足によるインフレに拍車がかかり、ついには100兆ジンバブエドル札が発行される事態にまで発展します。
最終的にはジンバブエ内で米ドルと南アフリカランドが流通するようになったことでジンバブエドルを使う人がいなくなり、通貨として事実上消滅したことでインフレは終息しました。
デフレとは
デフレはデフレーションの略で、物やサービスの値段が全体的に下がる現象のことです。
インフレとは反対に、貨幣の資産価値が上がっていく状態を指します。
物価が下落すると同じ数の商品を売っても企業の利益は減少するため、危惧されるのが企業の倒産やリストラです。
倒産やリストラが起こることで労働者の所得が減り、消費者は消費を控えるようになります。
すると企業がモノの価格を下げなければモノは売れなくなります。
このように物価の下落が不況を招き、さらに物価が下落する現象を「デフレスパイラル」と呼びます。
日本で過去に起きたデフレ
バブル崩壊後の日本では「失われた20年」とも呼ばれている経済の停滞が起こりました。
消費者物価指数(CPI)はバブル時にプラスで推移していたものがバブル崩壊を機にプラス幅が急速に縮小し、2000年代初頭からはマイナスが常態化しました。
2001年3月の内閣府「月例経済報告」の中で初めて「日本経済は緩やかなデフレにある」と公式に示しています。
その後2013年11月の月例経済報告まで、デフレという文言は登場し続けました。
日本のインフレ|過去・現在・未来
日本で過去に起きたインフレの例【オイルショック】
1973年(昭和48年)10月、中東の産油国が原油価格を70%引き上げました。
のちに「狂乱物価」といわれるインフレが発生した「第一次オイルショック」です。
また、1970年代末から1980年代初頭まで、原油価格は再び上昇し「第二次オイルショック」が起きています。
政府が紙の節約を呼びかけたことで「紙が無くなるらしい」という噂が広まりトイレットペーパーの買い占め騒ぎが発生しました。
さらにほかの商品もつられて買われてしまい、店頭から物が無くなる事態に発展しました。
原油価格の上昇はガソリンなどの石油関連製品の値上げを招き、そこを皮切りに物価が急上昇。
4.9%だった消費者物価指数(前年比)は1973年には11.7%、1974年には23.2%まで上昇しています。
日本の現在|アベノミクスで年2%のインフレが目標に
2013年に第二次安倍内閣が発足すると、2000年代から日本の経済を停滞させていたデフレスパイラルからの脱却を目指したインフレ誘導政策である「アベノミクス」が始まります。
アベノミクスでは「異次元の金融緩和」「大規模な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の3つの経済政策を掲げており、年2%のインフレを目標にしています。
ただし、現状では2%のインフレは達成されていません。
2014年に2.76%と目標を達成したものの、その後は以下のとおりで緩やかなインフレに留まっています。
- 2015年:79
- 2016年:▲11
- 2017年:47
- 2018年:98
- 2019年:48
出典:IMF World Economic Outlook Databases
とはいえ、目標には達していなくとも緩やかにインフレに向かっていることは間違いありません。
日本の将来|新型コロナウイルスの影響でインフレに進む?
2020年初頭、新型コロナウイルスが世界に拡散したことで、経済は大きな打撃を受けました。
いわゆる「コロナショック」です。
マスクが店頭から消え去り、1箱に数千円の値段がついていたことは記憶に新しいでしょう。
このように、需要と供給のバランスが崩れることで物価の上昇が進むことは、今後も起こり得ると考えられます。
例えば車などの工業製品は、グローバル化が進んでおり新興国で作った部品を輸入して、国内で製品を製造することも珍しくありません。
部品を作っている国で新型コロナウイルスが蔓延し、工場が閉鎖されれば世界的な部品不足に陥ってしまう可能性があります。
世界的な感染が終息して自粛が解除され、車のニーズが高まったとしても部品の供給が追い付かず、需要と供給のバランスが崩れて値上がりを起きるということも考えられるでしょう。