筋肉を発達させたいと思っている人たちは、対象筋をいかに強く刺激するかということで頭がいっぱいになりがちだ。しかし、肩に関して言うならもっと大切なことがある。それはもちろん、ケガの予防対策だ。トレーニングで肩を痛めてしまう人は多い。読者の中にも肩に痛みを感じてワークアウトを中断したり、しばらく肩を使う種目ができなかったという人も少なくないはずだ。確かに肉厚で幅の広い肩は、洗練されたフィジークを目指しているなら不可欠な部位だ。しかし、そのためにワークアウト量を増やしすぎたり、使用重量を重くしすぎたり、休養を犠牲にしてしまったりして、それがケガにつながっているケースが少なくない。もちろん、ワークアウトの量、頻度、使用重量を増やしすぎてケガをするのは肩だけに限らないわけだが、実は肩を痛める人が多いのには、もうひとつ別の理由がある。それがローテーターカフの存在だ。ローテーターカフの強化を怠ってしまうと、肩を痛める危険性は格段に高まってしまう。しっかり追い込んで肩の筋肉を発達させたいなら、ローテーターカフの強化、ケアを十分に行うことが大切になるのだ。

ローテーターカフの基本知識

肩を痛めるリスクを減らすローテータ―カフの鍛え方
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

肩の関節は、私たちの日常生活でも頻繁に使われている。しかも肩関節の可動域はとても広いので、これもまた肩を痛める原因と言えるかもしれない。

肩関節の可動域が広い理由はその構造にある。イメージとしては、窪みの中にボールがはめ込まれ、そのボールが自由自在に動いているような状態だ(イラスト参照)。

窪みに例えたのが肩甲骨の外側上部にある「関節窩」、ボールに例えたのが「上腕骨骨端」である。そのため腕をグルグルとさまざまな角度で回旋させたり前方、後方、左右に動かすことができるのだ。そして、この肩関節を「支えている」のがローテーターカフで、これは4つの小さな筋肉によって構成されている。

ローテーターカフを構成しているのは棘下筋、棘上筋、小円筋、そして肩甲下筋だ。これらの筋肉には複数の腱があって、ローテーターカフと肩関節の骨とをつなぎ、重要な役割を果たしている。

ところで「ローテーターカフが肩関節を支えている」とはどういうことなのか。まず第一に、ボール状の上腕骨骨端が、窪みである関節窩の中から外れないようにすること。そして、回旋、挙上、降下など、肩と腕の動きに力を与えることだ。

これらの動きは、ジムでトレーニングを行うときはもちろん、日常の動作でも当たり前のように行っているものばかりだ。肩関節は私たちが日々の生活を快適に送る上で特に大切な役割を持っていると言えるだろう。

ボディビルと肩のケガ

筋発達が最優先のボディビルダーたちは高重量でのトレーニングを積極的に行っている。特に高重量が用いられるのはベンチプレス、デッドリフト、スクワットなどで、他にもオーバーヘッドプレスやバイセップスカールなどでもすさまじい重量を扱う人たちが大勢いる。そんなトレーニーたちは肩を痛めたことがないのだろうか。もちろんあるに決まっているわけだが、一度痛めたら懲りるだろうと思いきや、痛みが引くと再び同じことを繰り返してしまうのである。

通常、肩のトレーニング頻度は週1回程度だ。しかし、肩は胸や背中のワークアウトでも刺激を受けているし、脚や腕のワークアウトでも、高重量のバーベルやダンベルをラックに戻すだけで肩の筋肉は使われているのだ。つまり、肩はジムに行くたびに酷使されているわけで、むしろケガをしないほうがおかしいぐらいなのだ。

肩を痛めたら肩のワークアウトはしばらく休むことになるわけだが、実際のところ他の部位のワークアウトでも肩を使うので、種目によってはどうしても影響が出てしまう。無理してやろうとすれば肩の痛みはなかなか消えず、完治するまでかなりの時間がかかってしまうことが多い。

ところで、多くのトレーニーが経験している肩のケガは、具体的にどのようなものが多いのだろうか。代表的な肩のケガを2つ紹介しておこう。

❶肩関節インピンジメント症候群(Shoulder Impingement)

頭上にウエイトを押し上げる動作を頻繁に行っている人によく見られるのが肩関節インピンジメント症候群だ。この症状が起きると、日常の動作であっても、腕を頭上に上げるだけで肩にピリッとした痛みが走るようになる。悪化すると、背中に腕を回した時も激痛に見舞われ、ジムでのトレーニングだけでなく、日常生活にも支障を来すようになる。インピンジメントは、使いすぎなどによる腱の炎症や断裂が原因でむくみが起こり、これが動作中に肩関節の中で骨と骨の間に挟まれたり、ぶつかったりすることを指している。つまり、その挟み込みや衝突が痛みを招いているのだ。これを治すにはトレーニングを休み、安静にしているのが一番だ。そして、むくみや腫れが引いて炎症や断裂が治ったら、再び同じケガをしないためにも、まずはローテーターカフを強化する必要がある。痛みを我慢してトレーニングを続ければ、一度傷ついた腱の炎症は慢性になり、ローテーターカフはどんどん痩せてもろくなり、断裂を起こしやすくなる。すでに説明のつかない痛みがある人、トレーニング歴は長いが特定の動作が極端に弱いという人、肩を使った特定の動作だけはどうしてもできないという人は、もはや自力での改善は難しい。そういう症状を抱えている人は専門医の診断を仰ぎ、適切な処置をしたほうが賢明だ。今後の自分のトレーニングに関わることなので決して楽観視せず、肩の健康状態には細心の注意を払うようにしたい。

❷ローテーターカフの断裂(Rotator Cuff Tear)

ローテーターカフが断裂すると腕を持ち上げることができなくなり、冷蔵庫から牛乳パックすら取り出せなくなる。それくらい肩には全く力が入らなくなってしまうのだ。ローテーターカフの断裂は、前述した肩関節インピンジメント症が悪化したときに起きる可能性が高い。あるいは、上腕二頭筋の断裂を放置してしまった場合も、やはりローテーターカフの断裂にまで症状が悪化するケースがある。実際、ローテーターカフの断裂で診察してもらったところ、上腕二頭筋に断裂痕が見つかることもあるのだ。ローテーターカフが断裂したら、治すには外科的治療しかない。もちろん、手術をすれば術後のリハビリが必要になるため、本格的なトレーニングの再開までかなり長い年月がかかることを覚悟しなければならない。