オルテガ氏に愛人が登場していなければサンドラが後継者に

オルテガ氏の前に愛人が登場していなければ、或いは父親と母親が離婚した際に父親と一緒に生活することを決めていれば、サンドラ氏がインディテックスの後継者になっていた可能性は十分にある。何しろ、父親のDNAはサンドラ氏の方がマルタ氏よりもより強く受け継いでいるのは確かだからである。マルタ氏は母親であるフロラ氏のDNAを受け継いでいるようで表に出たがる性格だ。

このような経緯があり、サンドラ氏は父親とは最近になって寄りが戻ったようで、彼女の3人の子供は頻繁に父親アマンシオ・オルテガ氏と一緒にいる時が良くあるそうだ。一方の異母妹マルタ氏との接触は全く皆無だという。(11月30日付「ディビニティ」と12月21日付「ムヘール・オイ」から引用)。

サンドラ氏の2つの事業

サンドラ氏は母親が亡くなったことで、母親の事業を受け継いだ。ひとつはロスプ・コルーニャ(Rosp Corunna)と、もうひとつはパイデイア・ガリサ(Paideia Galiza)である。前者は企業への投資事業、後者は身体障碍者への福祉事業である。母親はサンドラ氏の兄に脳障害者がいるということで離婚で得た資金を福祉事業に充てることに強い関心をもっていた。

投資事業の最初は彼女の地元であるガリシア地方の製薬会社で銀行から当初そっぽを向かれていたファルマ・マル社と呼ばれていたグループ製薬会社セルティア(Zeltia)の株4%を2002年に購入した。同社は2020年に薬品アピリィディン(Aplidin)を開発。当初コロナ菌の体内での発育を阻止する効能があるとされていたが、それは期待外れに終わった。しかし、同社の薬品ゼプゼルカ(Zepzelca)は腫瘍の増殖を抑える効果があるとして米国で既に発売されている。

更に不動産事業にも進出している。何しろ、今年だけでもインディテックスの株主として彼女に1億1000万ユーロ(132億円)の配当があったのだ。それを上手く活用することが彼女の使命となっている。

その一方で、投資として損出を招いているのがホテルルームメイト(Room Mate)への投資である。同ホテルのオーナーであるキケ・サラソラ氏はスペインの民主化で14年間首相としてスペインの産業発展のインフラを築いたフェリペ・ゴンサレス氏の親友で富豪であったエンリケ・サラソラ氏の息子でホテル事業に営んでいる。ロスプ・コルーニャは同ホテルの31%の株を取得するのに2600万ユーロ(31億2000万円)を投入。ところが、2019年からルーム・メイトは赤字に転落。コロナ禍の影響もあって経営危機が加速し国家産業出資公社に5600万ユーロ(67億2000万円)の支援を要請した。

実はこの投資はサンドラ氏に内緒で彼女の母親の右腕として活躍していたホセ・レイテ氏が独断で決めたものだとしてサンドラ氏は彼を解雇し訴訟を起こした。しかも、レイテ氏はサンドラの署名を偽造していたということも明らかになっている。しかし、同氏によると、数多くの書類などを署名する必要のあった彼女にとって全幅の信頼を寄せていた彼が彼女に代わって署名していたのは日常良くあったことだと回答しているという。(11月3日付「ハフィントンポスト」から引用)。

また彼女は父親と同じように、昨年のコロナ禍による医療危機の始まりには手術用のマスク100万枚と医療用ガウンを5000着、さらに顔面スクリーンも同様に量多く寄付した。(上述「ディビニティ」から引用)。

もう一つの福祉事業パイデイア・ガリサの分野においては年間の予算200万ユーロ。その内の60万ユーロ(7200万円)をロスプ・コルーニャが負担している。彼女は大学で心理学と人間科学を修学したということもあって、福祉事業には強い関心を示している。彼女の日常の活動の大半はこの福祉事業に費やされている。

サンドラ氏の夫パブロ・ゴメス氏とは長い付き合いの末に結婚し、彼は現在インディテックスに勤務して役職に就いてはいるが、マルタ氏を会長とする11人の新たな執行役員の中には加わっていない。

創業者の前にフロラ氏が出現していなければ、サンドラ氏がインディテックスの会長に就任していたかもしれない。しかし、彼女も父親と同様に控えめで、仮に会長になっていたとしてもメディアが彼女の写真を撮るのは容易ではないであろうと推察されている。4月から会長に就任するマルタ氏とは正反対である。