手持ちの案件にヤバそうなものが……このままバックれてもいいですか?
河野:あのね、ヤバい案件を受けてしまったときに、一番やってはいけないのが、バックれて逃げることなんですよ。
ぽな:
えっ、ダメなんですね……!?
河野:
一度引き受けたからには、こちらにも仕事を引き受けた側としての責任が発生します。だからこそ無断でバックレるのは絶対ダメ。まずは契約書の内容を確認して、契約解除に使えそうな条項があるかどうかを確認することです。
文言の書き方にもよりますけど、たとえば反社や詐欺グループが取引先だった場合は暴排条項が使えることもあります。また、案件の違法性が高くて依頼を遂行すること自体が法に触れる場合は、「公序良俗違反だから」という理由で履行を拒否することもできますね。ただ、ひとつ強調しておきたいのは、「違法な案件だから黙って逃げればいい」「契約として無効だろうからバックれればいい」という単純な話ではないということです。
ぽな:
契約の問題と、案件の違法性・やばさの問題ってまったく別レベルの問題ですものね。
河野:
そうそう。いったん受けている以上、受けた側にも契約上の責任はありますからね。ただ、このようにしてしまうと今度は「進むも地獄、退くも地獄」という状態になってしまうので、別に手段を考える必要があります。
まず最初にやるべきなのは発注者に直接確認してみることですよ。もしかしたらとんでもない誤解があるかもしれませんから。とにかく発注者本人の言い分も聞かずに、違法と決めつけて放り投げるのはまずい。
ぽな:
でも、確認したらしたで、当然のごとく「適法です」「問題ないです」という返答が来るのでは……?
河野:
うん。だから、弁護士に相談するというのが次の一手になりますね。あ、自分の宣伝で言っているわけではないですよ! 友人知人に相談すると守秘義務違反に問われる可能性が出てきてしまうけれど、弁護士は守秘義務を負っていますから。それゆえ、たとえクライアントさんと秘密保持契約をしていたとしても、弁護士に法律相談をするのは契約違反にはならないというのが一般的解釈です。
で、弁護士と相談して「いよいよヤバいぞ」ということになったら、先方に「適法性が確認できないかぎり、業務を進めることができません」とやんわり釘を刺しておきましょう。
ぽな:
いきなり「解除する」と言うと角が立っちゃうから、ペンディングさせるイメージでしょうか?
河野:
そうですね。しつこく確認すると、相手の方から「お前はもういい!」と言ってくるでしょう。マイルドな方法ではあるけれど、無難な対応ではあります。もちろん、中には緊急に降りなきゃいけないような差し迫ったケースもあるんですけどね。
ぽな:
必ずしも、「すぐに契約を解除しなきゃ」というわけではないということですね。たしかに最悪、自分の名前が表に出なければそこまで実害はないわけで。
河野:
ですね。あと、本当はあまりいいことではないのかもしれませんが、さっきも言った通り「いっそ目をつぶってしまう」というのも選択肢としてはあり得ると思います。というのも、案件の適法・違法の見極めって微妙なところがあって、「違法の疑いがあるから」ぐらいの理由で案件を放り投げるのが本当にいいことなのか、慎重に考えるべきだと思うんですよ。
ぽな:
実際、規制のキワやグレーゾーンを攻めるビジネスもありますよね。もちろんスキームの設計に弁護士さんが関わるなどして、適法ということにはなっているんでしょうけど。
河野:
正直、適法・違法どちらの筋もなりうるビジネスもあって、「裁判所が違法と判断するまでは適法」としか言いようがないケースもあるっちゃあるんです。弁護士は違法の疑いがあっても「適法だ」と主張する、適法になるようにがんばるのが仕事みたいなところがありますけど、一般のフリーランスさんはそうじゃないですから。
最低限、自分のところに火の粉がかかってこないようにリスクヘッジだけはする、というのも生存戦略としては正しいと思います。
ぽな:
自分だけが責任をとらされないように気をつけつつ、柔軟に立ち回るということですね。
河野:
そうそう。実際、第三者の著作権を侵害するような依頼をしてきて、責任はクリエイターに負わせるみたいなケースもありますからね……。
ぽな:
契約書をよく見ないと大変なことになるパターンですね……。
あいまいな世界をしたたかに生きるということ
今回のお話を伺った率直な感想は、「やれやれ、一筋縄ではいかないなあ」というものでした。私は法律を現在進行形で学んでいることもあり、一般的なフリーランスの方に比べると多少は法律の知識がある方だと思います。でも、試験問題と違って、リアルの世界はきれいごとでは済まされないところがある。リスクを全力で避けていったとしても、微妙な案件を引き当ててしまう可能性はあります。
ときに、あれと思うことがあったとしても、あえて清濁併せ呑んで生きていく胆力も必要なのかな、と感じました。
(執筆:ぽな 編集:少年B 協力:河野冬樹弁護士 イラスト:はこしろ)
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