ヤバそうな案件は登記をチェック!
ぽな:もちろんヤバい案件は、クラウドソーシングに限らないわけで。
たとえば人から頼まれた仕事でも、一見問題なさそうに見えて実はヤバい、というパターンもあると思うんです。ヤバい案件の特徴ってどんなものがあるんでしょうか?
河野:
まず一番ヤバいのは、発注者側がウソをついているパターンですよ。これは論外ですが、以前に話した「ヤバい人」の見極め方を考えるときと基本的に一緒です。
河野:
発注者側自身が違法行為をやっていて、しかも自覚がある場合というのはですね、当然のことながら「違法だけど受けてくれ」という形で案件を打診することはフツーはしませんよね。違法な案件ではあることはバレたくない、と考える人が多いんじゃないでしょうか。
ぽな:
SNS上に出回る「闇バイト」と同じパターンですねえ。
河野:
そうそう、具体的なことを言っちゃうと、ああいう人たちって「誰かに相談されたら、ヤバいことになる」という自覚は持っているんですよねぇ。
だから、早々に「守秘義務契約を結んでね」と言ってくると思います。
ぽな:
あああ、口止め工作が……!
河野:
いや、もちろん仕事の性質上、早い段階で守秘義務契約が必要になることはありますよ。でも、案件内容を開示する段階で、とか「いや本来そこまではいらんだろう」というレベルで守秘義務契約の締結を執拗に迫ってくる場合。これはもう、かなり怪しい。
ぽな:
言っちゃいけない案件だから、早い段階で話が外に漏れないようにしておくんですね。
河野:
そのとおりです。あとは、そもそも何をやろうとしているのか教えてくれないパターンもあります。「仕事の背景事情とかどうでもいいので、とにかく言ったとおりにやってください」と。
ぽな:
つっこまれるとすぐにボロが出るから、つっこむなと牽制するという……。
河野:
当然そうなりますよね。詳しく説明せずにぼかしておけば、バレるリスクが少なくなりますから。だからね、「ふわっとした話」しかしない人や、とにかく口止めさせようとする人には要注意!
ぽな:
ふわっとキラキラ発言をする人にロクなやつはいない、ですね!
河野:
あと、法人が発注元の場合は、会社の登記をチェックするといろんなことがわかりますよ。設立年数とか、会社の代表者がどう変遷しているかとか。株式会社なのに取締役が10年以上変わっていない(※)企業には注意が必要かもしれません。
ぽな:
なるほど……。会社のホームページやGoogle検索で調べるのはどうでしょうか?
河野:
その方法もありますね。ホームページを見て怪しいことをやってそうな企業は、危険性が高いといえます。あと、本当にヤバいトラブルが起きると、消費者庁のホームページなどで情報が出ていることもあります。
ただし、本当にタチが悪いところだと、ネガティブワードでの検索を避けるために、社名を変えていることもあるから気をつけましょう。
ぽな:
その痕跡は、登記をみればわかるんでしょうか……?
河野:
わかりますよ! 登記で判明した古い社名で検索してみるといいでしょう。
ぽな:
おおおお、登記つよい。なんでもわかるじゃないですか。登記最強……!
投資、税金、法律、美容・健康がらみの案件は気をつけて!
ぽな:ふわっとした話に気をつけろ、という先ほどのお話ですが、でも実際のところどうなんでしょう。
詳しい人なら「ヤバい」ってすぐにわかるかもしれませんが、そうじゃない人はふわっとした話でも信じてしまうこともあると思うんです。
河野:
金融・投資関係の詐欺とかがいい例かもしれませんね。あれも詳しければ「そんなうまい話はありえない」ってすぐにわかりますから。
ぽな:
あと、直接フリーランスに関わってくるところでは、ちょっとマニアックですけど士業関係の規制がありますよね。「無資格者はやってはいけない」という決まりが。先ほどの非弁行為もそうですが、こういうルールをわかっていないフリーランスは多いと思います。
河野:
というか、そもそもなんでルールがあるのかわからない、というレベルの人が大半だと思います。「なんでやってはいけないのか」と本気で思っている人もいますから、難しい。
ぽな:
たまに無資格のフリーランスで、契約書の雛形を正々堂々と売っている人とかいますが……。あれはいいんでしょうか?
河野:
契約書の雛形を売るだけなら、本を売るのと理屈は一緒なので一応ギリギリセーフといえるかもしれません。もちろん信頼性の問題はありますけど。ただ、個別に相談に乗ってしまうとアウトでしょうね。
クリエイターさんだと「自分の作った作品を売るのが当たり前」という感覚があるので、「作品として売っていいもの」と「売ってはいけないもの」の境目の感覚がしっくり来ない方もいるかもしれませんが……。
ぽな:
プラットフォームによっては、「アイコン描きます」と同じノリで、こうした「契約書作るのお手伝いします」みたいなサービスを出品できてしまいますからね。自分の作品やサービスを販売して何が悪いの?って感覚に陥る方は意外と多いかもしれません。
河野:
極端な話をすると、法律や税金を題材に作品を作って不特定多数に対して一般論を語るのはOKだけど、個別に相談に乗ってしまったらアウト。
それを考えると今のSNSの仕組みも微妙ですよね……。不特定多数に発信しているのか、個人に向けて発信しているのか境目が曖昧になっているところがある。Twitterのリプライとかだと、確かに誰でも見られるけど、形式としては個別に語りかける形になっていますから。
ぽな:
うーん、難しい……。しかも最近だと収益化もできますからね。
河野:
たとえば「Twitterのチケット制スペースの中で個別に質問を受け付ける」みたいな形になってくると、正直きわどくなってくると思います。
ぽな:
そう考えると、案件を引き受けるときだけではなく、自分自身でサービスを設計したり、イベントを企画したりするときも気をつけなければいけないということになりそうですね。特に士業周りについては……。
河野:
そうですね。基本的に気をつけなければならないジャンルの案件というのはいくつかあります。具体的には、法律、税金、投資、美容・健康。このあたりのジャンルはだいたい要注意ですかね。
法律と税金は士業の関係。また投資はどうしてもジャンルそのものが詐欺の温床になりやすいところがあるので。そして、美容・健康は、薬機法の関係でよく問題になります。
ぽな:
法律が関わってくるジャンルは気をつけておかないといけませんね……。
河野:
気をつけなければいけないのが、クライアントさんがいけないことをやっていたことに気づいた場合です。「こうした方がいいですよ」とアドバイスをすると、それが非弁行為になってしまうリスクがある。
ぽな:
あっ……!
河野:
もちろん法律を無視しているクライアントさんがいたとして、そのまま漫然とその案件を続けるのもリスクではあるんです。だからといって、踏み込んで法的なアドバイスをしたり、「適法性を確保します」と提案するところまで踏み込んじゃったりすると、それがまたヤバいというジレンマがあります。
だから、これは弁護士が言っていいことなのかわからないけれど、「自分は関係ない」というスタンスを貫くのもフリーランスの自衛策としてはひとつの正解だと思うんです。
ぽな:
そうですね……。もしかしたら、「表に自分の名前が出ないようにして、制作実績にも残さず、著作権も譲渡して案件が終わったらサヨウナラ」というやり方も無難というケースもあるのかもしれません。さすがにヤバい案件だからって、制作を放り投げて逃げるわけにもいきませんからね……。
河野:
それは当然ですね。というより、バックれることだけはやっちゃダメです!