ホテルは24時間営業、年中無休。もちろん年末年始もフル稼働しています。
ホテルと言えば、宿泊施設を思い浮かべる人も多いと思いますが、今回は、いわゆるシティホテルでの年末年始を紹介します。シティホテルとは、宿泊だけでなく、宴会場やレストラン、バーが併設されたホテルのこと。ちょっと高めのホテルを想像して頂くと良いかもしれません。
筆者が働いていたのは、都心にあるシティホテル。サービススタッフ、宴会担当や婚礼担当(ウエディングプランナー)として、10年以上勤務しました。
この体験談は、全てのホテルがあてはまるとは限りませんが、ホテル経験者なら共感してもらえる部分もあるはず。煌びやかに見えるホテルの裏で、休みなしで奮闘するホテルスタッフの実態をお伝えします。
■ 12月中旬|ホテルの年末恒例催事「ディナーショー」
ホテルの年末年始はとにかく忙しい。
年の瀬だなぁと感じるのは、毎年恒例、宴会場で行われるディナーショー。
ディナーショーとは、歌手や有名人のショーを楽しみながら、フルコースの料理を味わうことのできる晩さん会。どこのホテルでも年末に行われる恒例行事です。
ディナーショー当日に最も大変なのは「料理を作ること」と「料理を提供すること」。筆者は料理を提供する側なので、厨房の様子は外側からしか知りませんが、とにかく料理長の殺気が怖かった。
一度に100人以上の料理(しかもフルコース)を提供するディナーショー。何人もの料理長と一緒に働いてきましたが、日頃温厚な料理長でも、ディナーショーの日は、例に漏れず全員怖かった。料理長の怒鳴り声は、当たり前のようにバックヤードに響き渡ります。
そして料理を提供する側のサービススタッフも、とにかくひたすら忙しい。
ディナーショーは、食事をしながらショーを楽しむと思われがちですが、実際はディナータイムの後に、ショータイムが始まります。 そう、お客様が食事を楽しんでいる間、控室で有名人がスタンバっているのです。時間が押さないか、常にイベント会社の人の目が光っているのです。ショーの開始時間を遅らせるわけにはいきません。
とにかくオンタイムで料理を運び終えることが、サービススタッフの使命です。
人手が足りないために、バイトを雇うのはもちろん、フロントスタッフや、事務スタッフまでも駆り出され、料理をお客様に提供します。フロント部門のマネージャーが、いちサービス員に扮して料理を運び、婚礼部門のトップが皿洗いをしていたりもします。 それでも全く足りないマンパワー。厨房から次々とでてくる料理。運んでも運んでも、一向に皿は減りません。
お客様の前でゆったりと笑顔で接客する一方で、ひとたびバックヤードに入れば全員小走り。ドリンクが足りなければ保管庫まで猛ダッシュ。この忙しさがデザートを出し終わるまでの1時間強続きます。
フルコースの出し始めには余裕の表情だったスタッフも、肉料理を提供する頃にはもうピリピリです。料理の提供が終わり、ショーの最中は束の間の休息時間……と思いきや、後にはディナーショーの第2部が待っています。
第1部から第2部への「どんでん」(皿やグラスの片付け、テーブルクロスの張替、フルコースのセットを数100人分!並べること)の時間が20分しか取れないことも。スムーズなどんでんのため、バックヤードでは、第2部の準備が大忙しで行われているのです。
■ クリスマス|スタッフ総出でクリスマスケーキ作り
12月22日から25日にかけては、レストラン部門が忙しくなります。日頃は満席になることの少ないレストランも、カップルで満員御礼に。高単価なコース料理が次々に注文され、レストランスタッフも厨房も大忙し。
そして、人知れず忙しくなるのがパティシエ部門。1年で一番ホールケーキが売れるクリスマス。
筆者が働いていたホテルでは、クリスマスケーキの予約販売を行っていたので、毎年100個のクリスマスケーキのオーダーがありました。
ディナーショー同様、スタッフ総動員でケーキ作りに励みます。生クリームをパテしたり、絞ったりなど技術を要することはできませんが、イチゴを乗せたり、箱を組み立てたり、日頃とは全く違う業務にスタッフ一同奮闘します。
近くでパティシエさんの技を見ることができるのは役得でしたが、各部署の通常業務もこなさなければいけません。他の職業と同様、年末年始は取引先が休業になるため、今年中に終わらせなければいけない業務が山のよう。ケーキ作りが終わったら、生クリームの匂いを漂わせながら、持ち場に戻って事務作業に明け暮れます。
ホテル勤務時代には、クリスマスなんてありませんでした。残業中にパティシエさんがこっそり差し入れしてくれたクリスマスケーキの切れ端の美味しさは今でも忘れません。