弁護士は見た!契約書トラブルあるある

ぽな:
実際問題、契約書をめぐってトラブルが起きていることも多いと思うんですよね。ありがちな契約書のトラブルにはどのようなものがあるでしょうか。

河野:
まずは、曖昧な契約ですよね。たとえば、仕事内容が曖昧になっていたことが原因で、あとでトラブルになるパターンが多いです。とくに、打ち合わせ段階で録音などの記録が残っていない場合は問題になりやすいですね。

あとは、途中で仕事がキャンセルになってしまった場合というのはトラブルの温床です。仕事が途中になってしまったときの報酬の支払いについて、きちんと定まっていないケースが多いですから。

ぽな:
契約書から漏れてしまった「曖昧な部分」が、トラブルのもとになるんですね。

河野:
しかし、完璧な契約というものはそもそも不可能なんです。だからこそ、この「曖昧さとどうやってつきあっていくのか」がポイントになるのではないかと思います。つまり、曖昧な部分が自分の不利にならないようにするということです。

ぽな:
先生から見て、明らかに危ない契約書にはどのようなものがあるのでしょうか?

河野:
よくあるのは、リテイク回数が決まっておらず、クライアントがOKを出した時が「仕事のゴール」というケース。これが一番危ない。

ぽな:
クライアントのお気持ち次第で、エンドレスにやり直しが続くパターン……!

河野:
もう一つは、実質的に特定のクライアントに依存せざるを得なくなる契約ですね。「秘密保持義務」(一般的な秘密保持の範囲を超えて、他の仕事自体に制限がかかる場合など)や、「競業避止義務」がそれにあたります。

もちろん、一定程度必要になるケースはありますが、他の仕事を事実上受けられなくなるレベルで束縛されてないか、よく読むべきです。相手から兵糧攻めをされたときに、どうしようもなくなるわけじゃないですか。

ぽな:
収入を相手に依存してしまっている以上、何かあっても文句も言えないということにもなっちゃいますね。

河野:
あと、これは危ない契約書というよりも、契約の曖昧さに関わる話になりますが。契約を守らなかった場合の扱い───「損害賠償」の扱いにも気をつけないといけませんね。とくに、納品しなかった場合の損害賠償と、納品物に問題があった場合の損害賠償には要注意です。

損害賠償金の額が多額になるリスクがあるときは、あらかじめ契約書で金額の上限を制限しておく、といったことも必要になってくると思います。

契約書とフリーランスの不都合な真実

ぽな:
ここまで先生に伺った話を総合すると、フリーランス側にもある程度の能動性が求められるのでは、という気がしてきました。「出された契約書をきちんと読んで、言うべきことは言う」というのが、すべての前提になっている気がするのです。

河野:
結局はそうなんですよね。これはフリーランスの方にとっては耳の痛い話かもしれないけど……。

ぽな:
いえ、この際ですので、はっきり言っていただきたいです!

河野:
ぶっちゃけ、そのあたりの面倒さをですね、会社では総務部や法務部の人が負担してくれていたわけです。だからその分、「会社員時代は自分の取り分が少なかったんですよ」と。こういう話になってくるんですよね。

ぽな:
組織を離れて働く以上、「契約書をしっかり読む」というある程度の面倒さも、自分を守るためには必須であると。

河野:
「自分が何もしなくても、自分の権利を他人が勝手に守ってくれる」というのが、まず幻想だと思うんですよ。これは法律に限った話じゃなくて、フリーランスの場合はあらゆることを全部自分でやらなくちゃいけない。

たとえば、契約の話をしましょうか。「イラストを描くのが得意だからイラストレーターになる」という人はたくさんいると思うんですよ。でも、「契約書を読むのがうまいから自分はフリーランスになる」という人は、まずいないじゃないですか。

ぽな:
た、たしかに……! そこまで契約書読むのが得意なら、フリーランスになんてならずに、ロースクールに行っちゃうかもしれません。

河野:
そう、「法律や契約が得意だからフリーランスになる」という人はいないですよね。そう考えると、そもそもほとんどの人は契約書が苦手なんですよ。苦手でも自分でやる。だからこそ、フリーランスなんですよね。

ぽな:
そうか、得意であろうが、不得意であろうが、ある程度自分で頑張らないといけないんですね……。

河野:
まずは自分で読んでみる。それでダメだったら、お金を払って外注するという方法もありますね。

あとは、そうですね。契約書の話からは若干離れてしまいますが、交渉段階で、きちんとクライアントと話し合うということも必要になってくると思います。コミュニケーション不足が原因で、トラブルが起きるケースも多いですから。

ぽな:
やはり「自分の身は自分で守れ」といいますか、フリーランス側が積極的に動かないと厳しい部分もあるんですね。