<Profile> 段原亮治(だんばら・りょうじ) Rebright Partners: Principal / DocsApp: General Manager - Japan 九州大学卒。在京テレビ局のIT関連部署及び新規事業等を担当後、メディア系ベンチャー企業の開発関連の子会社のCEO等を歴任。その後、インドのテクノロジーに衝撃を受けて、現地のスタートアップ「DocsApp」に転職。現在、インドを中心にアジア向け投資を行うベンチャーキャピタル「Rebright Partners」にて、投資関連業務及び日本企業との提携等を担当し、DocsApp等の現地スタートアップ支援を行っている。 |
初めまして。段原亮治と申します。元々は、インドでオンライン診療サービスを提供しているヘルスケア系スタートアップ「DocsApp」に勤務しており、現在はその会社に投資を行ったベンチャーキャピタル(VC)「Rebright Partners」にメインで所属していますので、インドのスタートアップを中と外の両方の視点から見てきたと自負しています。
「インドのスタートアップ」というと皆さんはどんなイメージを持っていますか。スタートアップといえば、シリコンバレーが有名ですが、インドも負けてはいません。特に、DocsAppがあるバンガロールはインド国内の投資が最も集まる都市であり、毎日のようにスタートアップが設立され、瞬く間に成長を遂げる企業も目立ち始めています。バンガロールが「インドのシリコンバレー」と呼ばれるのはそのためです。そのような熱気あふれるインドという国で、かつ、スタートアップで働くことについて第1回目はお伝えします。
きっかけは、自らの逆オファー
数年以内に、インドのスタートアップで働くことは日本人にとって一つのオプションになると感じています。
そもそも自分自身がなぜインドのスタートアップを選んだかといえば、世界最先端のテクノロジーが次々と生まれている場所にどっぷり浸かれば、日本が抱えている問題の解決方法を見つけられるのではないかと思ったからです。インドは、開発途上国というイメージをお持ちの方がまだまだ多いようですが、そんな国だからこそ生まれる新たなサービスがあり、一部の領域では日本よりも先を行くサービスも存在しています。
例えば、病院が圧倒的に足りていないからこそオンライン診療が広まる、クレジットカードの保有率が低いからこそキャッシュレス決済が広まる。こういった現象を「リープ・フロッグ」と呼びますが、その最先端を突っ走っているのがまさにインドであり、そのド真ん中に飛び込んでみればきっと何か得られるはずだと確信して渡印しました。
きっかけは、2018年の春。インドの注目スタートアップが東京でピッチを行うイベントでした。友人に誘われて参加し、「これぞリープ・フロッグじゃないか!!」と衝撃を受けたこと、今でも鮮明に覚えています。既存の技術を越えて、最新技術が生まれることこそがイノベーションであり、インド国内のみならず世界を変えていくと確信しました。イベント後、ファウンダーたちと飲食をともにする間に、自分たちが世界を変えていくと意気投合。そして熱が冷めやらぬうちにインドを訪れました。目的は逆オファーです。イベントで特に気になった2社に自分が力になれることを伝え、結果そのうちの1社で働くことが決まったのです。細かい契約条件等は後回しにし、まずは現地で働くことにしました。
インドが誇るヘルスケアテックの雄
私がGeneral Manager - Japanを務めるDocsAppがどのようなスタートアップか紹介したいと思います。端的にいえばオンライン診療プラットフォームを提供している会社です。
インドでは人口あたりの医師の数が圧倒的に不足しており、それだけでなく病院や医療サービスが都市部に集中しているため地域間で医療格差が大きく社会課題となっています。たとえ、病院が家の近くにあったとしても、経済的な問題により診療を受けられない人が多く存在しています。このような課題を解決する医療サービスの一つがオンライン診療であり、その中でも500万ユーザーを抱えるインド国内最大のオンライン診療プラットフォームがDocsAppです。
同サービスには、7,000 人以上のドクターが登録しており、婦人科、皮膚科、循環器科、 消化器科、小児科等、幅広く対応しています。患者はスマートフォンのアプリでAIを活用した チャットボットによる問診を受けた後、ビデオ通話で医師に診断をしてもらいます。処方された薬は自宅まで配達され、血液検査等の簡単な検査は自宅でも受けることができます。この「一気通貫」のオンライン診療サービスになっている点がサービスの普及を後押ししたと考えられます。
このサービスによって患者の負担が軽減されたことは言うまでもありません。特に経済的な負担は通常の対面診療に比べて半分から2/3程度と大きく削減されました。他方で医師の視点になれば「売り上げが減るのでは?」と思われるかもしれません。しかしながら前述のAIチャットボットによる問診が診察時間の大幅な削減につながっています。医師からすればプラットフォームの利用手数料を加味しても、時間あたりの売上は約2倍にまで伸びているのです。AIを活用することで患者と医師の両者にとって大きなメリットが生まれています。
ところで「逆オファー」のために初めてこの会社を訪れたのが2018年6月。同年9月末にジョインしましたが僅か1年ほどで従業員数は130名から260名へと激増しました。前比200%です。日々目まぐるしく人が増え、オフィスの面積が広がり、会社もサービスもKPIもそれぞれがぐんぐん伸びていく様をまざまざ見せつけられました。
ある月は土日も関係なくほとんどの社員が休日も総出で頑張っていたり、大きな目標に到達しそうな時は夜遅く残っているメンバーで指標を映し出すモニターに集い、達成を祝いながらケーキを食べさせ合ったり、とにかく勢いとハングリーさが溢れています。鳥肌が立つようなシーンも何度か体験させてもらいました。
どんな条件のスタートアップだと働けるか
もしオプションとしてインドのスタートアップで働くことを考えるのであれば。具体的にどのようなスタートアップであれば日本人にも働ける可能性があるかというと、以下のような条件を満たしている企業だと考えられます。
・シリーズA以降の資金調達フェーズに入っている ・日本企業から既に出資を受けており、今後も日本企業に対してアプローチしたい ・いずれ日本も含めたアジアに展開することを考えている |
2018年のインドにおけるスタートアップの調達額は約1兆3,770億円で(ちなみに、日本国内のスタートップの調達額は約3,850億円で1/3程度)。彼らは日本企業からの資金も多く集めています。日本の企業から出資を受けたい、日本の企業と様々な事業連携を検討したいと考えるインドのスタートアップも増えていくでしょう。そういった企業に対してアプローチしていくことが現時点の近道ではないでしょうか。このあたり詳しくはまた別の機会にお伝えしたいと思います。
では、どんな方がインドのスタートアップにフィットするのでしょうか。
・カオスな環境で仕事をするのが好き
スタートアップでも数十人以上の規模になればそれなりのオフィスには入っています。しかし日本のオフィスと比べれば見劣りするところもあります。毎朝の通勤でオフィス前の道路を渡る、たったそれだけのことが危険だったりします(笑)。オフィスに限らず、生活環境も含めてツッコミどころ満載なので、そういう違いを楽しめるような方にはオススメです。
・英語はできるに越したことはない
インド英語はご想像の通りなかなかわかりにくいものです。例えば Burger の発音は「バーガー」というより、ほぼ「バルガル」です。そういった環境の中で暮らしていると、インド英語がわかるようになれば、ヒングリッシュなど他の英語が簡単に感じるようになるんじゃないかと思っています。僕も完全に理解できるわけではありませんし、何を言っているのか全くもって聞き取れない人も中にはいますが、この辺はいずれ慣れるはずです。実際、訪問してくる日本企業の方々も全員が流ちょうな英語を話すわけでもないですが、ビジネスとしてきちんと成立しているので、ご安心下さい。
・資金調達のサポートができる
通常の転職と同様ですが、その会社が求めているスキル、経験、ネットワークを持っている、やはりここが重要だと思います。特に、資金調達関連のサポートをするスキルは、大きなニーズがあると思います。前述のように、既に日本企業から出資を受けていたり、日本企業に出資をしてもらいたいと考えているスタートアップは日本企業との窓口を求めていることがあります。日本企業特有の文化をきちんと理解し、日本企業とのコミュニケーションを一手に引き受けてくれる存在にはバリューを感じてくれるようです。資金調達や事業開発等に自信のある方はチャレンジしやすいと言えます。
以上、まずは概論のような形にはなりますが、少しでもインドのスタートアップで働くことについてご理解いただけたでしょうか?実際は、まだまだ「日本人募集!」と銘打っている会社はほとんどないので、本当に行きたい場合は個別でゴリゴリにアプローチをしていくことになるかと思います。そのぐらいアグレッシブな方が入社後のことを考えても馴染めそうですね。日本からインドのスタートアップに対する出資は今後も増加していくと思うので、その間に立って活躍する日本人も必要になるはずです。その時に備えて、インドのスタートアップについて少しだけ知っていただけましたら幸いです。
次回以降は、インド人の働き方、私が勤務するDocsAppの詳細、日本とインドのスタートアップの相違点などについて、書いていこうと思います。
提供元・Liiga
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