視床下部には食欲を調整する複数の神経細胞群がまとまり、私たちの「空腹」や「満腹」の感覚を日々きめ細かく調節します。

中でも弓状核にあるAgRPニューロンは「お腹が空いた」という信号を強める役割を持ちます。

一方で視床下部にある室傍核(PVH:Paraventricular nucleus of the Hypothalamus)ニューロンは空腹感を抑える働きがあり、「もう食べなくていい」という食欲抑制の信号を担います。

ふだんAgRPはPVHの働きにブレーキをかけるため、AgRPが強いと空腹感が増し、PVHが弱くなります。

そのため、運動で増えたLac-Pheがこの綱引きにどう介入するかが、今回の研究の焦点でした。

運動が空腹感を抑制するメカニズムを解明!減量に役立つ可能性

研究チームは、Lac-PheがAgRPニューロンそのものを直接抑えることを示しました。

その際にスイッチの役目を果たすのが、AgRPニューロンにあるATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)です。

Lac-PheはKATPチャネルを活性化してAgRPニューロンの活動を弱めます。

そしてAgRPの抑えが外れると、これまでブレーキを受けていた視床下部室傍核(PVH)のニューロンが相対的に活性化し、満腹側の信号が強まるのです。

さらに、KATPチャネルを薬剤や遺伝子ツールを用いてにブロックすると、Lac-Pheによる食欲低下が見られなくなることが確かめられました。

つまり、KATPチャネルはLac-Pheの効果に不可欠な分子ゲートだといえます。

これにより、運動が食欲を抑制するメカニズムが解明されました。

これには大きな意味があります。

運動で痩せるのは、単に「カロリーを消費するから」だけでなく、「脳の食欲回路を切り替えるシグナルを生む」ことが示されたからです。

この理解は、肥満や生活習慣病の新しい対策を考えるうえで重要な足場になります。