これらの測定を行うと、光が本来持っていた「量子的な揺らぎ」が特定の状態に絞り込まれ、その結果、電子集団の方も同時に二つの極端な状態が重なり合った「猫状態」に移ることが明らかになりました。
補足コラム:なぜ光の測定で電子たちが量子状態になるのか?
光を「測る」ことで電子たちが一斉に量子的な状態になるという現象は、一見すると不思議な話に感じられます。実は、この背後には「量子もつれ(エンタングルメント)」という特殊な仕組みが関わっています。電子集団に猫状態の光を当てた直後の状態を想像してみましょう。この段階では電子と光が互いに深く絡み合い(量子もつれ)、一方の状態を調べることで、もう一方の状態が即座に決まるという関係性が生まれています。まるで、一つの封筒を開けた瞬間に、もう一つの離れた封筒の中身が分かってしまうようなものです。ここで重要になるのが光の測定です。特殊な方法で光の状態を測ると、光が持つ多数の可能性の中から特定の状態が選び出され、決定されます。すると、この測定結果によって光と深くもつれていた電子たちも瞬間的に特定の量子状態に移ることになるのです(ポストセレクションの一種です)。具体的には、光が二通りの相反する状態(例えば波の高さが正反対)を同時に持つ「猫状態」だった場合、測定でそのどちらか一方の特性が明らかになると、電子集団の方もそれに対応して、同時に二通りの状態を取る特別な量子状態へと「絞り込まれる」のです。言い換えると、「測定」という行為が光と電子の曖昧な結びつきを一気にクリアにし、電子を量子的に整列させる役割を果たします。つまり、「光を測る」ことが量子的な状態を壊すのではなく、逆に電子たちを「集団で猫状態」に誘導するためのカギとなっているのです。このように、量子の世界では「測る」ことが新しい量子状態を生み出す不思議な現象が起きるのです。
今回の理論研究では、この「測定によって電子が猫状態になる仕組み」が、8個から32個の電子という比較的多くの粒子数でもうまく機能することが確かめられています。